ヒュゲリなインタビュー

【YOUは何しに北欧へ?】Vol.6:フィンランドの動物彫刻家、小山泰さん

今日は『YOUは何しに北欧へ?』のVol.6をお届けします。

Vol.5のフィンランドの若手陶芸家・大野藍さんにご紹介いただいたのは、フィンランドのグループ展でお知り合いになった、動物彫刻家の小山泰さん。

小山さんは大学で法学部を卒業後、銀行に勤務されていました。そこから大きく人生を方向転換!フィンランドに引っ越してからすでに7年が経ち、今は主に動物の彫刻を作るアーティストとして首都ヘルシンキを拠点に活躍されています。

それでは最後までインタビューをお楽しみください!

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もくじ

個性を尊重するフィンランド式の美術教育は肌に合っていると感じた

koyama profile

1. フィンランドに引っ越したきっかけを教えてください。

フィンランド人アーティスト、トゥーラ・モイラネンさんとの出会いがきっかけです。京都にあった彼女の工房で、木版画とデッサンを教えて頂いた際、個性を尊重するフィンランド式の美術教育は肌に合っていると感じました。そこで「フィンランドで美術を学びたい」とトゥーラさんに伝えたのを覚えています。

その後、フィンランド大使館で美術学校の情報を得て、フィンランド東南部、湖水地方の街イマトラにあるイマトラ美術学校に留学することになりました。イマトラ美術学校では4年間、主に彫刻と版画を勉強しました。卒業後、フィンランドの首都ヘルシンキのナパギャラリーでの展覧会を境に、2012年からヘルシンキに住んでいます。

2. 今はどのような活動をされていますか?

基本的な活動は、制作と展示に分かれます。制作は、他のアーティストたちと共同で借りているスタジオでの木彫制作と、アアルト大学でのセラミック彫刻プロジェクトがあります。展示は、3〜4週間など期間の決まったアートギャラリーやデザインギャラリーの展覧会と、期間の決まっていないデザインギャラリーの販売展示や、多くのアーティストが参加するアートフェア等があります。

今年の3月〜4月期の展覧会は、フィンランド中部の都市ラハティにあるアートギャラリー・ウーシキピナでの個展、ヘルシンキのデザインギャラリーLOKALでの展覧会です。また、ヘルシンキのいくつかのデザインギャラリーではセラミック彫刻を展示販売してもらっています。

さらに今年に入ってから、フィンランド国外で開かれる国際アートフェアに招待されるようになってきました。2月には、スウェーデンのストックホルムで開かれた国際アートフェア・スーパーマーケット2014へ参加し、また6月には、韓国金堤市で開かれるダンヤ国際アートフェア2014に参加することが決まっています。

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画像:Katja Hagelstam

3. フィンランドに来て仕事上で一番の苦労話(あるいはカルチャーギャップを感じたこと)を教えてください。

仕事を含めた生活全般における一番のカルチャーギャップは、冬の暗さです。

北欧の冬はとても寒いのですが、自分にとっては氷点下20℃の寒さよりも、太陽の出ない冬のどんよりした天気や日照時間の短さ、すなわち暗さの方が辛く感じます。冬は太陽の出る日でも、朝9時半に陽が差し始め、夕方3時半に日が暮れる生活です。「北欧の憂鬱は、寒さにあらず、暗さにあり」といったところでしょうか。

日が暮れるのが早いと、体内時計が狂うのか、夜眠りにくい日々が続きます。また日光を浴びる時間が極めて少なくなると、体内のセロトニンが減少し憂鬱な気分になります。それらに対しては、軽い睡眠薬を摂ることや、キルカスバロランプというランプの光を浴びるという対処法があります。

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画像:12月中旬の午後3時頃、氷点下20℃のイマトラにて

 

優しくて温かい気持ちを感じてほしいという思いから作ったパンダ母子像

4. フィンランドに来て仕事上で一番嬉しかった話を教えてください。

昨年6月に1ヶ月間、バルト3国のラトビア、アイズプテ市にあるアーティストインレシデンスSERDEに参加しました。アーティストインレシデンスは、各種の芸術制作を行う人物を一定期間ある土地に招聘し、その土地に滞在しながら作品制作を支援する事業です。そのときに、大きな彫刻作品を作り、それが公園に設置された時が一番嬉しかったです。

人々に優しくて温かい気持ちを感じてほしいという思いから、大きな樫の木からパンダ母子像(150cm、200kg超)を作り、アイズプテ市中心街の公園に設置しました。

その後、パンダ像のオープニングセレモニーを、市長、市の文化部長、SERDE代表、市民や子供たちと共に祝い、たくさんの花束を頂きました。小さなオープニングパーティーでしたが、市長のほか、様々な年齢層の方が集まってくれて、とても良い会でした。

big panda

5. よくパンダを制作されているようですが、なぜパンダなのでしょうか?

初めは、粘土で形を作っていたので、なんとなくフィンランドの森の神と呼ばれる熊を作ろうと思っていました。

でも、熊を作っているうちに、色を塗りたくなって来て、白と黒を塗ったらどうだろうと。それでパンダになりました。それに、パンダはフィンランドにはいないので、フィンランドではより空想的で異種文化を取り入れる都会的なイメージがあると思います。ちょうど、イマトラの田舎生活を終え、ヘルシンキに出ようかと思っていた時期だったので、田舎から都会へ変わるメタモルフォーゼ(変身)の象徴だったのかもしれません。

ただ、制作するときはあまり考えていないのが本音です。アーティストレシデンスに行った時には、周りの環境や文化が異なります。また材料も自分で選べないことが多いです。そんな環境、異文化と、制作材料の間に立った時、頭よりも体の方が柔軟性に富んだ反応を示します。たとえば、木には既にかたちがあるので、そのかたちを利用しながら、少しずつ作るものを考えていくのです。よって、作っているときは、あまり考えていないというのが本音です。

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画像:フィンランドのインテリア誌グローリアコティ4月号18ページ

6. 小山さんがフィンランドで学んだ仕事術あるいはライフスタイルで、日本でも取り入れられそうな(あるいは日本人が見習うべき)ことはありますか?

休みをしっかり取る事です。フィンランドでは、生活における時間管理がきっちりしており、自分や家族のための時間が尊重される文化的、社会的土壌があります。OnとOffの峻別をしっかりさせ、OFFを大切にするのです。

たとえば、美術学校の教師は、授業が終わる午後4時を過ぎると家に帰り、自身のアーティストとしての制作や家族と過ごす時間を大切にしていました。

またフィンランドでは、ほとんどの社会人が1ヶ月間以上の夏休みを取ります。一月の夏休みで自身の興味の向くままに、新たな経験や旅、リフレッシュ等を経て、人生への新たな動機と仕事への活力を再び得ているように感じます。

個人的には、フィンランドに来て以来毎夏、アーティストインレシデンスか長い旅を経験してきました。その経験から培われた感性、知性及び技術が、現在の美術活動を支えてくれていると思っています。

リサ・ラーソンのようにかわいくて愛嬌のある動物彫刻を多く作っていきたい

7. 今後の目標を教えてください!

大きな目標は、自分がフィンランドと日本の文化的邂逅を為す者になりたいということです。もしくは、自分の作品が両者の文化的邂逅となれば、幸せです。

また、木彫彫刻の目標としては、公園、病院、学校、老人ホームなどに公共美術を作っていきたいです。先に挙げたラトビアの公園彫刻の他、ヘルシンキの小児病院ラステンリンナに、高さ1m以上、重量100kg超のパンダの木彫作品があります。病気と闘う子供たちに、少しでもいいから小さな幸せを感じてもらえるよう、寄付しました。

今後このような公共彫刻を、行政、自治体や私企業を巻き込んで、文化芸術的及び社会的なプロジェクトとして、作っていけるようになりたいです。

さらに陶芸彫刻の目標としては、スウェーデンのリサ・ラーソンのようにかわいくて愛嬌のある動物彫刻を多く作っていきたいです。またそれをフィンランドだけでなく、スウェーデンや日本の人々に知っていただきたいと思っています。

8. 小山さんにとって、もっともヒュゲリ(デンマーク語で「心地良い」)な瞬間はなんですか?

2人のミッコと会う時です。

彼らは、美術学生時代の友人で、3つの個室のあるキッチン・バス共同のアパートに一緒に住んでいました。同じイマトラ美術学校に通っていた2人のミッコとは、現在それぞれ別の街に住んでいますが、互いの展覧会があると、オープニングパーティで再会します。

また、昨夏には友人の別荘に泊まり、一緒に映画を見たり、食事を作ったりしました。彼らと会って、彼らの人柄に触れ、美術の話や他愛のない話をすると、とてもリラックスした気分になれます。

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画像:左/Mikko Kallavuo 右/Mikko Honkanen

9. この企画は、リレー形式で続けて行きます。北欧で活躍されている日本人の方をご存知でしたら、ぜひご紹介ください。

フィンランド、フィスカルス在住の山田吉雅さんを紹介します。山田さんとは、昨年1月ヘルシンキのデザインギャラリーLOKALの展覧会「Hei, Nippon!」で、お互い参加アーティストとしてお会いしました。木が自然に有している曲線を利用したテーブル等、温もりと優しさのある家具やデザイン作品を制作されています。

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いかがでしたでしょうか?

銀行員から彫刻家への転職を果たした小山さん。今ではフィンランドの展示会だけでなく、国外のアートフェアにも招待されるようになり、異国の地でもその才能を認められている姿は本当にかっこいいですね。

ヘルシンキの小児病院にパンダの木彫作品を寄付され、今後も公共彫刻を作りつづけたいとのこと。ぜひ、北欧だけでなく日本でもプロジェクトを立ち上げていただけると嬉しいですね。

私の中ではもうすでに、小山さんは「日本のリサ・ラーソン」です!これからもかわいらしい動物彫刻を作りつづけていただき、北欧ヒュゲリニュースとしても小山さんの今後の活動を日本で広めるお手伝いができれば幸いです。

次回はフィンランドで活躍されている家具デザイナーの山田さんをご紹介します。

引き続きお楽しみに!