ヒュゲリなコラム

デンマークの学校給食って、どんなの?日本とどう違うの?

今回はコペンハーゲン大学心理学科(Department of Psychology University of Copenhagen)で研究をされている海野歩未(Umino Ayumi)さんより、現地の学校給食に関するコラムを寄稿していただきましたので、ご紹介します。

もくじ

これは一体誰の昼食?

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デンマークの学校給食

子どもの頃学校で一番楽しみな時間は何でしたか?多くの人が給食を思い出すのではないでしょうか。毎日違うメニューにワクワクし、4時間目にはもう頭の中は給食のことでいっぱい、友達と一緒に食べることが楽しくて、不定期の特別メニューに興奮したものです。誰でも大好きだったメニューや、給食に関する思い出があることでしょう。その一方で好き嫌いや食事のマナーといった子どもとしては耳の痛い指導やルールもあったはず。

筆者も子どもの頃、牛乳を飲んでいる時に男子に笑わされて牛乳を吹きだしたり、嫌いな食べ物を食べきるまで休み時間に遊びに行けなかったりした思い出があります。好き嫌いの激しい子どもでしたので、教室で嫌いな食べ物と格闘している時にいつも思っていました「こんなに辛い思いをしてまで食べることに何の意味があるのか」と。(最近の学校現場ではそこまで厳しい好き嫌いに関する指導は無いように聞きます。)

最近ではアレルギーのある子どもに対する配慮が随分浸透しているようです。また,発達障害などの鋭い感覚のある子どもにとっても給食の時間は特別であり、時にはとても勇気のいる時間となっているようです。味覚や嗅覚、視覚など刺激への過敏な反応によって、給食の時間に周りには想像しがたい苦痛や不快を感じていることがあるのです。

日本の学校給食って、実は特別なんです!

ところで、この私達にとっては当たり前の学校給食、実は他の国には見られない特徴満載だということを知っていましたか?

ということで、コペンハーゲンにある公立学校に偵察に行ってきました。コペンハーゲン中心部から自転車で約30分の位置にあり、全学年(1年生から9年生まで。日本の小学校と中学校を合わせたもの)で800人の大規模学校です。

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これがデンマークの給食調理室。1クラス分ほどの広さの調理室に、調理員が3名。この学校の子ども達の昼食時間は11時10分から。その前までにせっせと用意をします。

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作られた給食は一人分ずつプラスチック容器に分けられます。ちなみに本日のメニューはトマトスープ&サンドイッチ、もしくは魚&野菜炒めでした。2種類から一つ選ぶことができるのは羨ましい…。

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この給食は3日前までに親がインターネットで注文・支払いをした家の子どもだけが受け取って食べることができるのです。

1セット当たりの価格は…23クローネ。約350円(2014年9月レート)日本の学校給食が一食当たり約250円ですので、若干割高な感じもしますが税込価格ですので。ちなみに給食費は親の収入に応じて減額されることもあるそうです。

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校舎が調理室から遠いクラスでは、担当の子どもが発泡スチロールの箱を抱えて給食を受け取りに来ます。給食エプロン着ません!マスクも帽子も着用しません!

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牛乳も受け取りに来ます。

給食室が近いクラスの子どもは各自で受け取りに来ます。「はい、並んで自分の名前言ってー」と注文した子どもを確認し、給食を渡していきます。

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『はい君はサンドイッチね』『ありがとー』 『はい、君は魚と野菜ね』『ありがとー』
 
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毎日異なる2種類のメニューが設定されていて、ベジタリアン食も数日設定されています。

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そして、この学校ではおやつまで用意されていました(野菜&フルーツジュース)。試飲させてもらいましたが、生姜が入っていてさっぱりとても美味しかったです!

校長先生へのインタビュー

給食調理室や給食のことについてダンディなソーレン校長先生にお話を伺いました。

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ソーレン校長:給食を注文していない他の子どもは自宅から自分が食べたいものを持ってきます。多くの子どもはライ麦パンとチーズやハムなどを合わせて持ってきています。それらをかばんに入れて学校に来たら教室に設置されている冷蔵庫に入れておきます。食べる時には同じく教室に設置されている電子レンジで温めることもできます。

何十年もデンマークではこの昼食システムがとられてきましたが、数年前から国は子ども達の食事の質を向上させるように呼びかけを行っています。本来であれば学校内に食堂を設け、そこから子ども達が給食を自分達のクラスへ運び、一緒に食事するのが望ましいと思われますが、現在デンマークの学校の敷地内にそのようなスペースが無く、国の要望のように学校が整備できないのが現状です。

デンマークの学校に子どもの健康的な昼食に関する責任は無いのですが。子ども達が偏った食事をする可能性がありますので、授業の中でよりバランスの取れた健康的な食事について子ども達と考える時間をもつようにしています。

我々の学校の昼食時間は40分で前半は食事をし、後半は休み時間です。7・8・9年生(日本の中学生)は学校の敷地外で昼食を購入することもできます。もし子ども達が昼食を持ってくることを忘れた場合は教師の裁量で食事を分けたりします。教師は子ども達が昼食を食べている休み時間の前半は教室にいますが、後半は職員室に戻り自分達の食事をします。

(この後筆者から日本の学校給食システムについてお話をしました。)

デンマークの子ども達の昼食システムは日本の学校給食システムより自由な感じがします。日本の学校給食の目標である、自分達の食生活が食にかかわる人々の様々な活動によって支えられていることを子ども達が知り尊重することや、食生活が自然の恩恵の上に成り立っていることを理解することはとても大切だと思います。あと、食事の後に歯磨きをするのもいいですね、デンマークの学校に全ての子どもが歯磨きをする場は無いですが…。

また、我々は子ども達に好き嫌いに関する指導はしていません。僕が子どもの頃はあったような気もしますが。様々な環境の全ての子どもが一日に一度は健康的な食事を摂ることができるという点は日本の素晴らしいところですね。どうぞ、デンマークの子ども達がどんなものを食べているか見て下さい。

デンマークの子どもの昼食

ということで、6年生の全3クラスへお邪魔して彼らのこの日の昼食を拝見してきました。それが記事冒頭の写真。6年生全体で約70人に対し、自分でお昼ごはんを用意して持って来ていたのは18人で、他の子ども達は家族の人に用意してもらったとのこと。さらに6人の子どもがお昼ごはんを持ってくることを忘れていました。

日本人的感覚で見るとかなり“質素”なものを食べているようでした。ちなみに日本人にはあまり馴染みの無いライ麦パンはビタミン、ミネラル、カルシウム、鉄分、食物繊維が豊富だそうです。また、この日給食を注文した子どものメニューはソーセージ2本とパン、ポップコーンとミルク、もしくはサンドイッチでした。

デンマークでは食べられないものがある子ども、アレルギーのある子どもでも自分が食べられるものをもってくることができます。そういった子どもが周りから目立つこともありません。一人ひとりが自分の食の嗜好や食事の量、その日の体調等に合わせて自分の食べるものを用意してもってきます。パンとチーズとハムであれば、親が用意する時間と手間の負担もありません。

日本の学校給食への反応

筆者が6年生の子ども達に日本の給食についてのプレゼンテーションを行いました。普段の授業では騒がしい子ども達が、真剣に聞いたり質問したりしている様子に先生達は驚いていました。遠い国の子ども達の食事に興味があったのでしょう。

プレゼンの後、子ども達からは『デンマークでは昼食を持ってくるのを忘れる人もいるから、日本のように全員が食べられるのは良いと思う』という意見や、『嫌いな食べ物を残した子どもに対して先生はどうするの?』『給食が沢山残ることがあると思うけど、学校はどういう風に対応しているの?』『アレルギーがある子どもはどうするの?』『全員全部の種類のおかずを取らないといけないの?自分で選ぶことはできないの?』などの質問が止まりませんでした。

子ども × 食事

今回デンマークの学校で子ども達の学校給食や昼食の様子を見て、日本とデンマークでは子ども達にとっての“学校での食事”の位置づけが異なっているように感じました。

日本の子どもは給食を通して、健康な身体、衛生管理、給食当番といった役割、配膳方法、バランスのとれた献立、食物の栄養、食事のマナー、生産者、口腔衛生、食を通した文化学習…といった様々なことを学びます。そしてバランスの取れた食事を全ての子どもが摂ることができます。一方で日本では、食べられないものがある生徒は給食の時間を苦痛に感じたり、アレルギーのある子どもが肩身の狭い思いをしたりしていることも事実です。食べられない理由は人それぞれで、その思いは他の人には分かりにくく、頑張ったら食べられる次元ではないこともあるのです。

デンマークの子ども達は食事の時間に日本のような教育的指導を受けることはありませんし、ルールもありません。

日本人は好き嫌いがあることや、食べ物を残すことに対してとても敏感です。戦後の貧困時代を生きた人達の経験や、米一粒にも大きな意味を見出す文化が影響しているのだと思われます。

勿論食べ物をなるべく無駄にしないようにすることや、作られた過程などを知ることは大事でしょう。しかし、本来子どもにとって最も大切なことは“食べることは楽しいこと”と感じることのように思います。残さず食べているか、マナーを守って食べているかに過剰に注意を向ける前に、“美味しく楽しく食べる“という最も食の土台となる経験を子ども達にはして欲しいと思います。食べることは生きることに直結し、子どもの心と身体にも関係しています。だからこそ大人は子どもの食事に慎重になる必要があるように思います。

好きなものばかり食べる我儘な子どもが増えるのではないか、好きなものばかり食べて病気になるのではないかと心配する人もいるでしょう。確かに食事のバランスが崩れて肥満やカルシウム不足になっている人もいるでしょう。しかし、そういった特定の問題だけを取り上げるのではなく、もっと大きな視点で食というものを捉え子ども達と語り合ってもよいかもしれません。「いつも好き嫌いせずに何でも美味しくマナーを守って食べる」という考えは色々な考え方の1つに過ぎないということに気づく時かもしれません。

世界には色々な食の文化や食の嗜好の人達がいます。全く魚介類を食べない地域の人、野菜を食べない人、ベジタリアンの人、宗教的理由で特定の肉を食べない人、特別な調理法が必要な人…。日本ではマナー違反な食事方法でも別の文化では正しいマナーの場合もあります。これからは食を通して人や文化の多様性を知り、自分がどう考え、どうしていくのかを考える時代のように思います。

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日本式に手を合わせて、「イタダキマース!」

※写真の使用は学校・本人・保護者の許可をとっています。写真の無断転用は日本およびデンマークの法律で罰せられます。