コペンハーゲン大学心理学科(Department of Psychology University of Copenhagen)で研究をされている海野歩未(Umino Ayumi)さんによる寄稿記事第3弾。今回は、デンマークの私立学校についてのお話です。


公立?私立?デンマークの親の選択

ゲストライターの海野歩未です。デンマークの大学で子どもの教育に関する研究を行っているのですが、その中で知ったことを今回はお伝えします。

国内総生産(GDP)における教育支出の割合が8.8%に達していることから(Education at a Glance 2013 on the OECD を参照のこと)、デンマークは最も教育にお金をかけている国のひとつといえます。またデンマークの子ども達はのびのびと学び過ごしている印象が日本の人達にはあるのではないでしょうか。

筆者のこれまでの調査や教師らとの関わりから考えると、デンマークの小中学校の特徴は、定期テストが無く、ひとクラスの人数は日本の3分の2程度だということだけでなく、ディスカッション形式の授業が多く取り入れられ、教師は教育学に重きをおいて授業をしていることなどが挙げられるでしょう。

一方で教育にかける費用の割にはその結果のひとつである子どもの学力が芳しくないことや、障害のある子どもも通常のクラスの中で他の子ども達と共に学ぶことを指すインクルーシブ教育の実現に足踏みしているといった課題があるようです。このようなことからデンマークでは私立学校に自分達の子どもを通わせる親が増加しているようです。デンマークでは現在、全体の約2割の子どもが私立学校に在籍しています。

そこで今回はコペンハーゲン中心部にある私立小中学校(日本の小中学校を合わせたもの)を例に、その概要や授業の様子などをお伝えします。

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コペンハーゲンの中心に位置するこの学校は1年生(日本の小学1年生)から9年生(日本の中学3年生)まであり、各クラスには平均22人の生徒が、学校全体では430人の生徒が在籍し、約30名の教師が働いています。


授業料は意外に安い?

私立の学校に子どもを通わせるのに気になるのが学費でしょう。意外にもデンマークの私立学校の学費は他のヨーロッパと比較して安価な方に入るのです。1年生から6年生はひと月1,340kr(約25,000円/2014年12月現在)、7年生から9年生はひと月1,490kr(約28,000円/2014年12月現在)で、きょうだい児も同じ学校に在籍している場合は割引があるそうです。

授業料には教科書や修学旅行費が含まれています。学校給食はありません。尚、私立学校であっても自治体から一部資金援助を受けることになっており、この毎月の授業料は自治体からの援助分を差し引いた金額になっています。ちなみに全てのデンマーク人の子どもは18歳になるまで福祉手当にあたるものを受け取ることになっており,一般的な家庭で月10万円程度支給されます。(2015/01/30 本箇所に対してご指摘をいただき、再確認後に誤りを認識し、また誤解を生む表現でもあったため、削除しました)


入学試験なし、子どもに障害があっても入学可能

入学試験はありません。ではどのように入学するのでしょうか。

この学校ではこの学校の周辺エリア内で生まれた全てのデンマーク人の赤ちゃんの家族にこの学校の入学申込書が配布されます。そのタイミングで子どもの入学を希望する親は申込書を記入し提出するのです。それから約6年後に入学となります。

もし、その時点で申込書を提出しなかったけれど、後からやっぱり入学させたいという場合には、同じく申込書を記入して提出するのですが、その場合はウェイティングリストで順番待ちになります。

また、障害がある子どもも入学申込書を提出すれば入学することができます。少なくともこの私立学校では申込書を提出しさえすれば、子どもに特別な配慮が必要であっても、そのことで入学を拒まれることは無いそうです。


時間割と授業科目

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学年が上がると7時間目以降も実施されるようになるそうです。上図を見る限り、デンマークの子ども達は日本の子どもより早い時間から授業が始まっていることが分かります。

授業科目は、デンマーク語、数学、宗教、英語、ドイツ語or中国語、歴史、社会、自然/技術、物理/化学、地理学、生物、スポーツ、水泳、音楽、技術家庭科、調理、グリーンタイム、IT/iPad、学活となっています。自然に触れたり携わったりする授業(グリーンタイム)が設けられているところが、自然が大好きなデンマークらしいですね。


学校についてアネッテ(Annette)校長先生にインタビューをしました。

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入学において子どもの選別はされないのですね?

入学試験や面接試験がありませんので、子どもの選別は一切しません。入学申込書を提出して8月生まれの子どもとその保護者から順番に学校と短い面談をします。内容は学校のことや子どもの特徴についてです。それでもそこで振るいにかけることはありません。

デンマークで公立学校と私立学校の最も大きな違いは何だと思いますか。

私立学校はそれぞれの学校が独自のカリキュラムやアイディアをもっていますから、その価値について比較することは難しいです。でも言えるなら教育委員会でしょう。普通、地方自治体には教育委員会があって、そこは全ての公立学校を管轄しているけども、私たち私立学校は各学校にひとつの委員会(理事会)があります。また、私立学校はそれぞれの親が各学校の教育方針や独自の活動などに共感して子どもを入学させます。つまり親は自分達が子どもに望む教育を実施している学校を選ぶと同時に学校に協力する責任もあるのです。

私立学校は国の教育目標や教育カリキュラムに従うのでしょうか。

国から掲げられている教育目標を達成し、公立学校と少なくとも同レベルの学力を保持することが求められています。この学校の学力レベルはいつも高レベルなので問題ありません。また我々は私立学校ならではの独自の教育方法やカリキュラムを設定します。例えばデンマークでは通常、第二外国語はフランス語かドイツ語の一方を選ぶことになっているのですが、この学校はドイツ語か中国語を選ぶことになっています。

私立学校の生徒の学力レベルはどうですか。

公立学校と同じく9年生の最後のナショナルテスト以外にテストはありません。私立学校の生徒の結果はとても高いです。

入学時の選別をしていないのに、なぜ学力の結果に差が出るのでしょうか。

8月生まれ、つまりその学年で早く生まれた子どもから入学を優先して受け付けることになるからでしょう。

生徒のバックグラウンドや言語はどのようになっていますか。

殆どの子どもがデンマーク人ですが、他にアジア、南米、中東、北欧などの子どももいます。でも生徒はデンマーク語を十分話す必要があります。

この学校の特別支援教育について教えて下さい。

私立学校に特別支援学級を設置することはできません。ただ通常の学級の中で支援が必要な生徒はいますので、補助教員や特別の授業が必要かどうかを保護者と一緒に話し合います。支援が必要な場合には行政からの補助金を受けて実施することになります。

この後、7年生(日本の中学1年生)と9年生(日本の中学3年生)の授業を見学しました。

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全ての生徒が自分のノートパソコンを持参し、そこに文章を打ち込んだり調べものをしたりします。日本のように先生が板書したことをノートにひたすら書き写すという作業は必要ないようです。

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先生は電子黒板に必要な情報を提示し、電子ペンで板書したことはコンピューターに保存するのでいつでも見て確認することができます。生徒のパソコンに送信したり保護者と共有したりすることも可能です。

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グループ学習などの際に静かな部屋で作業をしたい生徒は、別室に移動することが可能です。

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9年生のデンマーク語の授業では、活発なディスカッションが繰り広げられていました。文章を読んで生徒一人ひとりが自分が解釈したことや、どういった意味を見出したかを発表し互いに深めていく様子を目の当りにし、論理的に考える力、自分が考えたことを相手に伝える言葉にする力、そしてメタ言語の力の高さを感じました。

ここでは正しい答えを出したり教師が導いたりすることはありません、それぞれが考えをシェアし高め合うことが大事だと先生は言っていました。

子どもに障害や特別な配慮が必要であっても入学が可能であり、必要な配慮を講じると校長先生がはっきり言っていたのが印象的で好感がもてました。また、クラスが少人数で先生の目が行き届いており、参観したクラスの生徒は非常に穏やかで礼儀正しかったように感じました。公立学校・私立学校どちらが良いと一概に判断することはできませんが、今回の見学を通して子どもにどんな環境で何を学んで欲しいかを考えるひとつの選択肢として、私立学校を選択する保護者が増えているのも納得できそうです。