スウェーデンから帰国して早一ヶ月。
久しぶりに、東京の夏の「蒸し暑さ」というものを感じております(ちなみにストックホルムの夏は、全然湿気が無いのでとても快適でした)。
そんな時には涼しい話題を!ということで、ストックホルムのPRエージェンシー、Jung Relationsが昨年冬に手掛けたXperia Ray(Sony Ericsson)のローンチキャンペーンをお届けしたいと思います。
もくじ
「暗い所でもキレイに写るんです」
このXperia Rayは、暗い環境の中でも写真がキレイに撮れる、というのが機能的特徴です。
そのことを北欧マーケットにアピールするにはどうすれば良いか?これがJung Relationsに与えられた課題でした。
多くの方もご存知の通り、北欧の冬は長くて寒くて…暗いんです。
私はストックホルムで冬を二回越しましたが、一年目は10月頃に雪が降り始め、最も暗い時期では日照時間が朝の9時頃から3時頃というような状況で、辛いなぁ…と感じる日もありました。
では、「そんな暗闇なんて、ヘッチャラさ!」って思えるようにするにはどうしたら良いのでしょうか。
Jung Relationsが専門家に聞いたところ、最も簡単な攻略法は、「あなたのことを大切に思っているよ」という心温まる言葉を相手に伝えること、だったそうです。
Defy the darkness(暗闇に立ち向かえ)
そこで生まれたキャンペーンの名前は「Defy the darkness」。
流れはこんな感じです:
①ユーザーは特設サイト(PC or モバイル)にアクセスし、そこで大切な人に対するメッセージを入力・送信します。
②そのメッセージは、夜間限定でストックホルムのStureplan(ストゥーレプラン)という人通りの多いエリアにある大型ビジョン(東京でいうところの新宿アルタビジョン?)に表示されます。
③メッセージの表示された大型ビジョンはXperia Rayで撮影され、その写真は「大切な人」にSMS or メールとして届けられます。
ウェブバナーやブロガーもインタラクティブ対応に
ウェブサイトに加え、宣伝用のウェブバナーやブロガー対策にも一工夫。
「バナー」と聞くと、「ザ・広告!」というイメージがありますが、Jung Relationsはそこにインタラクティブ要素を付け加え、バナー上で相手に直接メッセージを送信できる仕組みを用意したんです。
ザ・広告!的なスタンスでバナーを表示されると、どうしてもクリックしたくなくなり、たとえクリックしたとしても、自分の知りたい情報に辿り着くまでに時間がかかる場合もあると思います。
けれどもJung Relationsの用意したバナーでは、余計なクリックやページ移動が必要無く、すぐその場でキャンペーンに参加できちゃう。
単純な仕組みではありますが、ユーザーの心理的ハードルを上手いこと下げているところに感心しました。
もう一つの施策は、スウェーデンの著名なファッション・ライフスタイルブロガーを巻き込んだもの。
一人一人に対してパーソナライズ化されたメッセージをStureplanの大型ビジョンで届け、何人かのブロガーに取り上げてもらうことに成功。
399人が大切な人に伝えた言葉は「I love you」
4日間に渡って実施されたこのキャンペーンの結果は以下の通り:
・インプレッション数:1400万以上
・メッセージ数:3000通以上
・平均サイト滞在時間:2分40秒
・プロポーズ:11件
・相手に「I love you」と伝えた人:399人
コチラがケーススタディ映像です↓
機能的ベネフィットに情緒を加えることの意味
暗いところでも写真が撮れますよ、という携帯の機能的側面は、単純に画素数などのスペック情報を消費者にストレートにアピールしても、あまり響かないでしょう。
けれども、そこに「暗闇の中での大切な人へのメッセージ」というエモーション的要素を付け加えることで、キャンペーン参加者に商品を自分事として捉えてもらうことを試みた、という意味ではとても面白い施策だと思いました。
また、冬というローンチ時期を、上手く北欧のコンテクストに当てはめたところも評価すべきではないでしょうか。
果たしてマーケティング課題は正しかったのか?
しかし、個人的には、暗い環境の中でも写真がキレイに撮れる、というXperia Rayの機能的特徴をマーケティングの課題として捉えることが本当に正しかったのか?ちょっと疑問が残るところがあります。
理由は単純で、その特徴を知っただけでは携帯を乗り換えようという気にはならないからです。
もし暗いところでも写真がちゃんと撮れるモノが欲しいというのであれば、普通のデジタルカメラのほうが性能が良いのでは?と思ってしまいます(実際のところ、ケーススタディ映像に出てくる写真は、私が期待していたほどキレイでは無い気もしますし…)。
他社のスマートフォンとの差別化は図れているのかもしれませんが、「カメラ」だけにフォーカスしてしまうと、競争の場はデジタルカメラなども含めたカメラ市場になってしまうのではないでしょうか。
そうなってくると強敵は沢山でてきてしまいます。
このキャンペーンはある意味北欧市場だからこそ成立したのだと思いますが、他の市場ではXperia Rayはどのようにマーケティングされているのでしょうか?
また、Xperiaというブランド自体のマーケティングはどうなっているのでしょうか?iPhoneユーザーなので今まで特に注目していませんでしたが、気になるところです。
(ちなみにXperia Rayの日本市場向けウェブサイトでは、カメラの特徴はそんなにプッシュされていませんでした)