ヒュゲリなコラム

完璧な暮らしを求めるデンマーク人。高福祉と自由を手にしてもなお足りないものとは?

「デンマーク人がなぜ世界一幸福を感じているのか」を体感すべく、デンマークに住みながらその手がかりを探そうと毎日を過ごしているのですが、そんな中、「DIN DANSKER(デンマーク人とその文化を知るための外国人向けテキスト)」に「多くのデンマーク人が”完璧な暮らし”を求めて”完璧な自分”になろうとしている」という考察がありました。そこで今回は、世界一幸せと言われるデンマーク人がなぜ「完璧な暮らし」を求めるのか、そして「完璧な暮らし」とは何なのかを少し考えてみたいと思います。

What is the perfect life
画像:Hver tredje dansker bliver psykisk syg i løbet af livet | Nyheder | DR

もくじ

人は「自由」を手に入れると生きづらくなる?

200年ほど前のデンマーク国民は、大半が農民であり、彼らは自分で「どこに住み、どんな仕事をし、誰と結婚するか」といったことを考える必要はありませんでした。子ども達の将来を決めるのは両親や社会だったからです。しかし、19世紀に入りデンマーク王国憲法が制定され、農民解放政策が進められる中で「フォルケホイスコーレ(知らない方はこちらの記事で)」も誕生し、デモクラシー(国民による国民のための政治が行われている状態)が機能し始め、デンマーク人は自らの人生をどのように生きるかを「自分で決める自由」を手に入れます。

現代のデンマーク人は「どこに住み、どんな仕事をし、誰と結婚するか」を自分で決められます。また、教育は基本無料。大学や専門学校は学費が無料なだけでなく、さらにSUと呼ばれる国からの経済手当(返済義務なし)を月10万円ほどもらえます。つまり、家族の経済状況にかかわらず、学びたい人は自分で学びたいことを自由に選んで学び、仕事に必要な知識や経験を習得することが出来るということです。

「どんな生活を送るかは全く自由である」ということは、言い換えれば「幸せな人生を送れるかどうかは自分の責任である」ということ。大きな自由を手にした現代のデンマーク人は、自分の人生がうまくいっていないことを親のせいにも、社会のせいにも出来ません。うまくいっていないとすれば、それは全て「自分の責任」なのです。

そんなデンマーク人達の多くは「完璧な暮らし」を求め、「完璧な自分」になろうとしています。「完璧な暮らし」や「完璧な自分」に対する唯一の正解があるわけではありませんが、下記のような例がDIN DANSKERには挙げられています。

  • 若く美しく健康でいること
  • 他のみんなと同じではなく「特別な何か」であること
  • 興味深い仕事で忙しくしていること
  • と同時にゆっくりと休暇を過ごす時間的な余裕もあること
  • 生態系についてや発展途上国に対してなど、社会問題に関して”正しい”意見が言えること
  • 健康的な食生活をし、運動も欠かさないこと
  • “正しい”場所に住み、”正しい”人気のカフェに行き、”正しい”エキゾチックな旅行をすること など

自由とともに教育を始めとした「高福祉」を享受しているデンマーク人ですが、デンマークのオーフス大学による研究によると、今後3人に1人の割合で、うつ病など何らかの精神疾患の治療を受けるだろうと言われています。また、他人と比べて自分が”劣っている”と感じたり、生きるための選択肢がありすぎてどうしていいのかわからなくなっている若者も少なくなありません。特に最近はFacebookなどのSNSで「友達の充実した毎日の様子」を見ることが出来るので、余計に自分だけが取り残されているように感じてしまうようです。

フォルケホイスコーレに関する記事の中でも書きましたが、僕も実際うつ気味になってフォルケホイスコーレに来ているデンマーク人の若者に何名か会ったことがあります。彼らから「自分は周りのみんなと違って”完璧”ではないし、何をしたらいいのかがわからない」という話を聞いた時は少し驚きましたが、同時に納得出来る部分もありました。平等な社会ではスタートラインが同じように見えるため、ついつい他人と自分を比べてしまいがちです。また、自由であることは必ずしも幸せに必要な条件だとは限らないことを改めて感じました。

完璧ではない自分を受け入れながら諦めない

時に「自分以外の誰かや何か」のせいにしなければやり過ごせないことは、生きていれば誰もが必ず経験すると思います。もちろん根本的な原因に向き合わなければ問題は解決はしないのですが、みんながみんないつでも問題と正面から向き合えるほど強くはありません。また、人は誰しも完璧ではありません。足りない部分をお互いに補い、支え合うことは生きていく上で必要不可欠です。

自分が完璧ではないことを知り、認めることが出来れば、相手が完璧でないことも許すことが出来るはず。完璧ではないことを受け入れるというのは、諦めるということではなく「そこからどうやって進んでいくか」を客観的に考えられるようになるということだと思います。

僕にとっての「完璧な暮らし」は精神的・経済的に自立した状態になり(一つの会社や一つの仕事、一つの地域でしか生きられない状態ではないという意味)、自分がすべきだと思うことを、やりたいだけ追求出来る毎日を過ごすことです。

「早く結婚したほうがいいんじゃないか」と言われたとしても、「それはあなたにとって完璧な暮らしかもしれませんが、私にとっては違います。」と胸を張って言えるかどうか。

あなたにとって”完璧な暮らし”とは何ですか。

参考:
DIN DANSKER Nye sider af dansk kultur

SU til videregående uddannelser – SU
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