ヒュゲリなコラム

ユルくて適当?デンマーク小学3年クラスに1日密着してわかった幸せのエッセンス

画像:Bordings Friskole

「フリースコーレ」とは?

現在デンマークには、公立でも私立でもない「フリースコーレ」が、約550校あります。

6才から15才までの義務教育(日本で言う小中学校)を受けられる学校で、国全体の小中学校生の18%を占めます。

150年の歴史がある「フリースコーレ」は、各学校で教育の基礎とする価値観やメソッドが異なり、バイリンガル校、特定の宗教に基づいた学校、ルドルフ・スタイナーの教えに沿った教育を行う学校など、多様です。

「教育する義務はあるけれど、場所は問わない」という、学校内に留まらない教育を行う自由な環境。

今回私は、コペンハーゲン市内にある、Bordings Friskoleに1日潜入してきました。

Bordings Friskoleには、420人の生徒が通っています。

学業の成績より、社会的・人間的・クリエイティブにおいての成長が重視されるという、ユニークな環境です。

土壇場のスケジュール変更もリラックス対応

元々の予定では、小学校2年生(日本でいう3年生)の授業の様子を、1日取材することになっていました。

ところが、予定日の数日前に先生から連絡が。

急遽、バレエ観劇の課外授業に変更するというのです。

この経緯も、デンマーク、フリースコーレならでは。

「劇場で働く知り合いから連絡が来て、『空席ができたからどうか』と聞かれたので受け入れた」という、なんとも「ノリのいい」理由。

時間の余裕を持って保護者に知らせる義務や、突然の変更にクレームはないのか聞くと、「保護者に連絡したが特に問題はない」と非常にリラックスした様子。

私が小学校の頃は、前もって予定表や持ち物が配られたり、保護者の同意書があった記憶がありますが、そういったものは一切無し。

このような状況は、デンマーク企業で働いていたときにも経験しました。

念入りにプランを練るより、「訪れた機会を上手く活用するために、素早く柔軟に対応する」というデンマークらしさが表れています。

私自身も、
ー 朝8時半に校門で待ち合わせ
ー 歩いて劇場に行くので歩きやすい靴を
ー お弁当を持参

という3点以外の情報は一切無し。

わくわくして当日を迎えました。

当日のスケジュール

下記に、1日のスケジュールを紹介します。

スケジュールといっても、結果的にこうなった「記録としてのスケジュール」。

前もって分刻みに予定が立てられていたわけではありません。

08:30職員室でミーティング
08:40 – 08:50生徒登校
08:50 – 08:55出欠、朝のあいさつ
09:00校庭で集合
09:00 – 10:00徒歩で劇場へ
10:10 – 10:45バレエ観劇
11:00 – 11:20劇場外の芝生エリアでお弁当
11:20 – 11:40外遊び
11:40徒歩で学校へ
12:20帰り道にある公園で休憩(外遊び)
13:30学校到着、今日のまとめ
14:00生徒帰宅
14:10職員室でミーティング

詳しくは、下記のセクションで説明したいと思います。

生徒登校前の準備はおしゃれな職員室で

8時半に校門前でイェンスクリスチャン(先生)と待ち合わせをすると、コロナ後校庭に設置してある洗面台で手を洗い、校内に。

まずは職員室に向かいます。

職員室といっても、四角い机が所狭しと並ぶ、私がイメージする職員室とはだいぶ違います。

いくつかの部屋がつながったスペースの他、カフェのような部屋があり、テーブルとソファーに座って休憩やミーティングができるようになっています。

まずは、そこである1人の先生と落ち合い、数分の簡単なミーティング。

急遽課外授業に変更となったため、イェンスクリスチャンがその日教えるはずだった他の学年クラスの授業を代講してもらうためです。

このプロセスも、「すみませんねえ」は一切なく、とてもカジュアル。

私が働いていた職場でもそうでしたが、デンマークでは「休むと他人に迷惑をかける」というコンセプトはありません。

長い休暇や、突然の病欠の時も、根底にあるのは「お互い様」。

もちろん自分の持つプロジェクトや仕事に合わせて休みを取りますが、お互いをカバーしあって助け合うことに重きが置かれています。

“デンマーク流”朝のホームルーム

続いて教室に向かい、部屋の中で生徒の登校を待ちます。

この日は、課外授業のため、19人の生徒に対し、2人の教師で対応(イェンスクリスチャンとソフィー)。

高学年になると、1人で対応可能だそうです。

4つの大きな机に、それぞれ4~5人づつ座るスタイルで、個別の机はありません。

時間になると、まずは出欠(この日は19人が出席)。

生徒は、返事とともに数字を言います。

不思議に思って後で訳を聞くと、これはその日の気分を10段階で答えるものだそうです。

大抵の生徒は、7~9。

1や2と答える生徒はいるのか聞くと、

「毎日聞かれるので、習慣的に(7など)同じ数字を言う子もいる」

「4や5と答える子がいたら、踏み込んで何か起こったのか聞くようにしている」といいます。

続いてデジタルスクリーンに「5555」と書き、どんな方法で「5,555」になり得るかとのクイズ。

1+5,554、4,000+1,555、5,000+400+155など、思いついた生徒が次々に答えます。

これは、皆を集中させて「学校モード」に引き入れる方法なのだとの印象を受けました。

道中はハプニングだらけ!

トイレに行った後、校庭で集合し、劇場に向かいます。

劇場までは歩いて約3km。

出発したのは09:00、ショーの開始10:00までには1時間あります。

しかし、出発10分で予想外のハプニングが。

1人の生徒トマスがつまづいて転び、足をくじいてしまったのです。

泣きながら「痛いよ、痛いよ」と、歩くのをためらっていますが、ここで休憩をしては間に合わなくなります。

そんなトマスに「さあ、歩いて。できるよ!」と痛みとは関係ない話や質問をしながら気分をそらし、前に進み続ける奮起を促すイェンスクリスチャン。

そんなこともあり、また暑さもあって歩くペースは遅くなり、1/3の1kmを歩くのに30分ほどかかってしまいました。

そこで、このままでは間に合わないと判断したソフィーは、一度足を止めて生徒たちを集めます。

「ショーが始まるのは10:00。5分前には着かないといけないから、残りは25分。ギリギリだけど、全員が集中して、前の人にぴったり着いて、できるだけ早足で歩けば、間に合う。皆で協力して、一丸となって残りの道を歩きましょう。」

と、語りかけます。

この語りかけ方は、デンマーク式「ポジティブトーキング」に基づくもの。

「急がないと間に合わないよ」、すなわち「○○しなさい、さもないと××」と、ネガティブな結果をもとにやる気をかき立てるのではなく、ポジティブな結果を念頭に置く話し方です。

(ポジティブトーキングについては、また別の機会に詳しく紹介します。)

これを境にスピードを上げ、何とか滑り込みセーフで10:00に到着。

イェンスクリスチャンが劇場に携帯で連絡を入れたこともあり、劇場は私たちの到着を待ってくれていました。

こうして、バレエ公演は10分遅れで開幕し、無事にショーを観劇することができました。

生徒と学校を取り込む無料公演

バレエショー自体は30分と短いもの。

オペラ座の中にある、付属的小さな舞台で行われました。

「Princessen på Ærten(エンドウ豆の上に寝たお姫様)」というアンデルセン童話を元にしたバレエ。

バレエというより、バレエの動きを元にした劇で、生徒たちは楽しんだようです。

観劇中気がついたのは、私の前に座っていたソフィー(先生)と1人の生徒が手を握っていたこと。

暗闇の中でドラマチックな音楽が流れる劇場空間を、少し怖いと感じる子もいるのかもしれません。

そんな生徒の目線に立ち、寄り添う先生のオープンな態度にデンマークらしさを感じました。

そして、終了後、公演の背景について、劇場関係者と話をしました。

現在の劇場マネージャーは、学校を通じた子ども向け公演に力を入れており、このバレエ公演も完全無料。

「近年の劇場離れを危惧し、小さい頃から劇場に親しんでもらうことで、早くから気軽に劇場に足を運ぶ習慣を身につけてもらいたい」という理由だそうです。

今回も、私たち以外にも、2校からのグループが参加していました。

劇場は、学校側も気軽に課外授業として取り入れられるよう、授業の一環として使えるマテリアルを用意。

振り付け師・クリエーターが、バレエの内容について質問を投げかけるビデオや、基本のバレエの動きを一緒に試せるビデオ、先生が使えるパワーポイントなど、学校側(教師)も積極的に取り入れるサポートマテリアルが用意されています。

帰りの寄り道。点呼代わりのかくれんぼ

鑑賞後は劇場すぐ外の芝生エリアで休憩。

イェンスクリスチャンがまず口にしたのは、皆へのねぎらいでした。

「みんな、『よくやった』と自分の肩をトントン叩いて。全員が集中して協力したおかげで劇に間に合った。よくやったね!」

お弁当を食べたあと、走り回って遊び、その後帰路に就いたのですが、帰り道も時間がかかったため、途中にある公園で休憩。

ここでも興味深い光景を目にしました。

ひとしきり遊んだ後、先生たちはどうやって遊びをお終いにして皆をまとめるのかなと見ていました。

その方法は、何と「かくれんぼ」。

それほど広くないオープンな遊び場で、隠れる場所も少ないのですが、そんなことは関係なし。

先生たち2人が「鬼」になって、次々と子どもたちを見つけます。

このかくれんぼのルールは、見つけられた子は、自分のリュックを持って遊び場の反対側にあるベンチに座る、ということ。

デンマークは、遊びを使って学ぶことに重きが置かれているのですが、これはスマートなやり方だなと思いました。

ー それまで思い思いに遊んでいる生徒を、一度に集合できる
ー 荷物を忘れることがない
ー 遊びの一環なので、生徒も、楽しみながら積極的に参加できる

「前へ習え」や「点呼」ではなく、「かくれんぼ」による集合。

遊びを取り入れ、自然に楽しく皆をまとめるやり方は、私も参考にしたいなと思いました。

ゆる〜い途中参加や早退もOK

もうひとつ、課外授業中に驚いたのは、途中参加や早退もOKだったこと。

観劇後にクリスチャニア自転車(荷物や人を乗せて走れるカーゴバイク)に子供を連れてやってくる親。

帰り道の公園で遊ぶ中、自転車でやってきて子どもを連れて帰る親。

どちらも、先生と携帯で連絡を取りながら、その場で臨機応変に対応していました。

作文用紙はナシ。自由な感想シェア

学校到着後、30分弱をかけて、1日のまとめが行われました。

「何が印象深かったか」という質問に、生徒が次々と手を挙げて答えます。

ー お姫様が濡れて出てきたところ
ー 最初から終わりまで「Strange」だった
ー ドレスが広がりすぎていて(小道具の)隙間を通れなかったとき
ー マットレスを何枚も重ねていたところ

ここで興味深いのは、全ての意見が正解で、皆どんな意見も自由にシェアし、周りもそれを受け入れていること。

私が小学生のときの感想文は非常に真面目で、いい点を取るため、模範解答にどれだけ近づけられるかに焦点を当てていた記憶がありますが、デンマークでは、周りの意見に合わせることは求められません。

これは、仕事や友達など、大人になって意見を交換するときにも健在。

デンマーク同僚とのミーティングは、色々な意見が出てオープン、かつ建設的です。

感想をシェアした後は、先生がバレエの元になったアンデルセンの話を朗読。

その間、かごに入ったリンゴが配られ、みなリンゴをかじりながら、劇中の気に入ったシーンを絵に描きます。

学校潜入を終えて

こうして、フリースコーレの1日は終わりました。

特に決まった取材テーマもなく、オープンな気持ちで望んだ学校潜入でしたが、子育て・教育のみならず、職場や日常生活でも使える多くのヒントが見え、ポジティブなエネルギーを受け取った1日となりました。

ガチガチに決まっていないスケジュール。

権威を振りかざさない先生たちが、遊び要素たっぷりに生徒をまとめる様子。

一見「ゆるくて適当」とも思える1日も、臨機応変に対応しハプニングを楽しめるデンマーク人のエッセンスを垣間見た1日でした。

次回は、11月末に、通常授業を行う学校での1日を取材の予定です(12月中旬に記事を配信予定)。