北欧文学に詳しくない人でも、一度は聞いたことがあるタイトル『長くつ下のピッピ』。
スウェーデン人作家アストリッド・リンドグレーンによる、世界的に人気の物語です。
子ども向けの絵本として知っている方も多いのではないでしょうか。
そんなピッピの原画や原稿をはじめとする貴重な品々が展示されている、「長くつ下のピッピの世界展~リンドグレーンが描く北欧の暮らしと子どもたち~」が、現在日本各地を巡っています。
今回、北欧ヒュゲリニュースは、京都会場を訪ねました。
その模様をお届けするとともに、ピッピ作品のほか、数多くのスウェーデン文学作品を翻訳されている石井登志子さんにお話を伺うことができたので、あわせてお伝えします。
ピッピ展の中身については、公式HPをご覧のうえ、実際に足を運んでみてくださいね。
もくじ
世界が待ち望んでいた女の子「ピッピ」
豊かな農場に育ち、自然に囲まれ、温かい家庭で育った作者アストリッド・リンドグレーンは「遊んで遊んで、遊び死にしなかったのが不思議なぐらい」楽しい子ども時代を送ったといいます。
一方で、同じ学校に通っていながら、裕福な自分は教師からひいきにされ、貧しい生徒たちは疎んじられているというような差別に対して、幼いころから不平等を感じていました。
そんな彼女が出版した『長くつ下のピッピ』は、あっという間に世界中に広まり、現在まで続く大ベストセラーとなります。
翻訳者の石井さんはその理由として、当時の時代背景を挙げます。
『長くつ下のピッピ』が出版された当時は、世界のどこへ行っても不平等が存在していました。
そこにピッピという、力強く奔放で、しかし正義感にあふれる優しい少女が現れました。
きっと、不公平に対する潜在的な不満を持っていた世界中の女の子や女性たちが、ピッピに共感を覚え夢中になったのだと思います。
その後アストリッド・リンドグレーンは、次々に人気作品を生み出していきますが、彼女はこんな風に言っていたそうです。
「わたしは、自分の知っていることしか書けません」。
しかし、彼女の優しく圧倒的に豊かな想像力は世界中で支持され、児童文学作家としてだけでなく、後にはオピニオンリーダーとして活躍していくことになります。
翻訳って、けっこうプレッシャー
というわけで、『ピッピ』作品の魅力や、作者のさらなる魅力については、実際の会場で存分にお楽しみください(笑)
続いては、『ピッピ』作品だけでなく、数多くのリンドクレーン作品の翻訳を手がけている石井登志子さんへのショートインタビューです。
翻訳のときに心がけていることは何ですか?
わたしの場合、原稿とともにイラストがついていることが多いので、そのイラストにも合わせた言葉選びを心がけています。
本になって世の中に出るときには、イラストと翻訳文がセットになって、それがそのまま、その国での作品の世界観を作ります。それって、けっこうプレッシャーというか、怖いことですよね(笑)
だけど同時に、世の中に出すときには、「これ以上はない!ベスト!」というものを出そうと心がけています。そこに後悔はないようにしています。
石井さんのギャラリートークのあと、たくさんの方がサインに並ばれていましたね。(*)
たくさんの方が、作品に対する思い出や思い入れを語ってくださいました。わたしは作者ではありませんが、そうやって多くの人の心に強く残る作品づくりに携われているのは、本当に嬉しいことです。
「命ある限り希望あり」。
翻訳者も、作品に救われている
外国の作品って、読者からすると、半分は翻訳者が書いたという側面がありますよね。
そうですよね。わたし自身も、のめり込んでしまいます。翻訳者だから、仲介者でいいはずなんですけどね。
『リンドグレーンの戦争日記』という、第二次世界大戦中の様子について描かれている作品を翻訳していたときは、その内容の重さからか、心がズーンと重くなってしまうときがありました。
たとえば他に、『おもしろ荘の子どもたち』シリーズを翻訳したのですが、のちに落ち込んでいるときに、作品の登場人物アッベという少年の「命ある限り希望あり」という言葉に、すごく励まされました。
あ、でもね。出版には翻訳者だけじゃなく、編集者もとっても大切なんです!
より良い表現のために助言してくれたり、翻訳の進みが遅いときにはハッパをかけてくれたり、いろんな形でわたしを支えてくれています。
そういう意味で、翻訳者と編集者両方が大事という感じかも。
<カラフルな会場内には、『ピッピ』以外の作品の原画も展示されています>
石井さんにとってヒュゲリなときは、いつですか?
うーん、翻訳をしているときかなあ(笑)
家事をするのも好きなんですけど、部屋でひっそりひとりで翻訳していると、すごくリラックスできますね。なんでだろう・・・(笑)
では最後に、未来の翻訳者志望の人たちへのアドバイスやコメントをお願いします!
たくさん本を読んでください、ということでしょうか。翻訳をするためには、日本語ができないといけないので。
日本語でのいろいろな表現に触れてほしいなと思います。
石井さんもおっしゃっているように、大人も子どもも楽しめる『ピッピ』作品。
会場では原画だけでなく、作品に出てくる「ごたごた荘」の模型や、マンガも展示されています。
訪れているお客さんも本当に幅広く、往年のファンにも、ちょっと気になっている方にも楽しめる内容だと思います。
3月4日までは京都で、その後は名古屋、福岡、愛媛で開催予定です。ぜひ行ってみてください!
<展覧会オフィシャルグッズをはじめ、本や雑貨などの色々なグッズも販売しています>
* 取材日の2月17日、石井さんが会場内を回りながらのギャラリートークが行なわれ、その後に石井さんが翻訳を手がけた作品へのサイン会が2時間ほど(!)行なわれていました。
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〇イベント名
日本・スウェーデン外交関係樹立150周年記念
「長くつ下のピッピの世界展~リンドグレーンが描く北欧の暮らしと子どもたち~」
〇会場
- 美術館「えき」KYOTO
2019年2月8日(金)~3月4日(月) - 松坂屋美術館
2019年4月27日(土)~6月16日(日) - 福岡市博物館(予定)
2019年7月6日(土)~8月25日(日) (予定) - 愛媛県美術館
2019年9月7日(土)~11月4日(月)(予定)
長くつ下のピッピの世界展|美術館「えき」KYOTO