ヒュゲリなコラム

大人は「不完全な生きる事例」北欧児童心理学者に教わった親の役割とは

もくじ

不完全が当たり前。大人を通じて学ぶ子供たち

「完璧ではなく70%でいい」という自分に対するスタンスは、成長過程の子供にとっても大事で、それが一体どういうことか、親やまわりの大人を通じて学ぶものだと教えてくれたのも、児童心理学者のエマです。

親として子供に教えたいのは、人間は完璧じゃないし、間違えを犯すのは自然ということ。

そして自分が身をもって、人間は完璧じゃないよという不完全さの、一番身近な「生きる事例」となること。

これは、実際に「不完全な生きる事例」を知らなかった、というよりむしろ「自分の不完全を認められる人」が身近にいなかった私には、考えさせられる言葉でした。

間違いはネガティブ?

私の父親は「親は子どもを導くもの」と信じて疑わず、親が言ってることはいつも正しいから、その通りにしていれば間違いない、と言葉の選び方まで事細かに指示をしました。

もちろん、父がごく普通に自分の間違えを認めたり、謝ったりする事を目にしたことがありません。

これは、家庭内だけではなく、社会でもある傾向ではないでしょうか。

学校でも先生の言うことは絶対だし、会社でも上司に従うのが当たり前。

プロは間違いを許されない。

「知らない」は恥ずかしいし、格好悪い。

知らないことは謝るに値すること。

子供の時も、大人になってからも、間違いを認めずに取り繕ってしまう人にも多く会いました。

間違いを許せなくて相手を追い詰めてしまう人、間違いを大失敗ととらえ平謝りする人やされる人にも。

その上、学校や受験で繰り返し受ける、大人によって作られたテストでは、正解か不正解の二通りしかなく、たった一つしかない答えを見つけなければ点数はもらえない。

そんな「生きる見本たち」から、間違いはネガティブなことなんだと自然に学んでいったのだと思います。

デンマークで出会った「生きる見本」たち

小さい頃、日本で「生きた見本」としてお手本にできる人はいませんでしたし、成長してから住んだイギリス、アメリカ、フランスでも出会いはありませんでした。

でも、30代で移住したここデンマークでは、間違いをどうとらえ、どう反応してどう先に進むかというプロセスが上手い「自然体の不完全なデンマーク人」に多く出会ってきました。

面白い例があります。

イギリス発祥で、素人がパンやケーキのベーキングを競う人気番組があります(The Great British Bake Off)。

イギリスのオリジナル版と、デンマーク版(Den store bagedyst)を両方、数シーズン見ました。

ケーキやパンの作り方や、審査員のコメントももちろん面白いのですが、私が特に面白いと思ったのは、2つの国の文化の違いです。

イギリス人は、思い通りにできないことがあると「あー、すごく失敗しちゃった。こんな失敗作を審査員の前に出すのは恥ずかしい」と落ち込みます。

審査員にも「ごめんなさい、こんなひどいものを出して」と謝ったり、思い通りの作品を作れなかった自分を容赦しません(イギリス人の謙遜文化のせいもあるかもしれませんが。。)。

一方デンマーク人は、「ああムカつく!ケーキの表面がボコボコ。本当はすごくきれいになるはずだったのに、残念すぎる。」

「今日の出来はひどくてぜんぜん満足していないけど、誰にでもついてない日はある。」

「”no cakeより崩れたケーキ”ね。仕方がないわ。」

「明日は、今日の失敗を挽回して自信作ができるように、気を取り直して取り組もう。」と前を見ます。

何なんだろう、このデンマーク人のすっきりした対応は!

間違いや失敗を悲観的にとらえず、人間は不完全だから失敗は当たり前という前提のもと、開き直りとも、やりきった感とも違う、チャレンジを楽しむ感覚。

もし私がこの番組に出演していたとしたら、前者イギリスに近い、後悔の念がにじむ”ウェット”な反応だったろうなと思います。

飛行機内で起こった、機長のミスと乗客の反応

もう一つ面白い話があります。

何年か前、クリスマス前日の23日(北欧では24日がメインイベント)に、ブリュッセル空港からコペンハーゲンまで飛ぶ予定でした。

数日前から悪天候で大雪だったため、飛行機が飛べるかどうかわかりませんでしたが、とりあえず空港に向かい、チェックインをすませました。

その時点で、すでにフライトは遅延が確実。

ボードに表示される離陸予定時間は遅延に遅延を重ね、チェックインから10時間ほどたった後に、ようやく搭乗できることになりました。

飛行機に乗り込み、ああようやく出発できるとほっとしていたところ、デンマーク人機長からのアナウンスが。

寒くて機体が凍っているので、除氷(ディアイシング)しなくてはならないが、空港には除氷の機械が二つしかないので、順番待ちだというのです。

1時間ほど動かない機内で待った後、ようやく順番がまわってきて、除氷作業が始まりました。

ようやく作業が終わった頃、飛行機の中からも聞こえるくらい大きく、プシューっと空気の抜けるような音が。

何事かと思うと、再び機長からのアナウンス。

「除氷は無事に終わったが、自分のミスで間違ったボタンを押してしまったので、非常脱出用スライドが膨張展開してしまった。スライドを機体に収納してからの離陸となるのでもう少し時間がかかる」

冗談のような話ですが、実話です。

そしてまた時間が経過した後、スライド収納が終わったのでようやく出発かと思いきや、

「待ってる間にまた機体が凍ってしまったので、再び除氷機の順番を待って除氷が必要になる。でも、パイロットもクルーも労働時間の限度が残り少ないし、コペンハーゲン側もクリスマス前日なので、空港管制塔が閉まる時間に間に合わないかもしれない」

乗客たちは「えーっ。あり得ない」と口にしますが、それ以上の反応はありません。

これにも驚きました。

ストレスと怒りでキレる人も、無言で怒りに耐えている人もいないのです。

むしろ、近くに座っている乗客同士で、アメリカ50州を全部暗記しているか協力して書き出すゲームをしたり、与えられた環境の中でベストに過ごそうとしています。

日本でも数年前に、似たような状況の中、歌手の松山千春さんが歌を歌って場を和ませたというエピソードがありましたが、このフライトの乗客たちは、松山千春抜きで、自分たちで場を和ませることができたのです。

結局、除氷も全て終わった後、そのフライトはキャンセルになったので、今では笑い話ですが、その機長と乗客の対応が印象に残っています。

そして翌日、至難はまだ続きます。

フライトは無事離陸しましたが、問題は着陸後の空港からの足。

クリスマス当日と雪でデンマークとスウェーデンの交通機関がほぼ機能しない状態だったのです。

そこでも、同じ境遇の見知らぬ人たちと協力し、迎えにくる車に乗せてもらったり乗せてあげたりし、私もそのおかげで、無事に110キロ離れた目的地までたどり着くことができました。

子どもにいい影響を与える「不完全な生きた事例」になるために

職業柄といえ、隠したりいいわけをしたりせず、自分の間違えを認め、正直に状況を伝えた機長。

ミスをした人を追いつめず、受け止め、間違いの結果ついてきたネガティブな環境をできるだけポジティブに近づけることを、ごく普通にやってのける乗客。

この他にも、まだまだ伝えたいエピソードは沢山ありますが、デンマークに何年住んでも、不完全さをごく自然に認め受け入れ、自分や相手を責めることなく前に進む、という向き合い方は、私にとって新鮮で心地よいものです。

親のみならず、そんな大人と多く出会うことで、子どもは「不完全な生きる事例」がどうやってその不完全さと向き合い、前に進んでいくかを学んでいくのではないでしょうか。