画像:Tandpleje 0-5 år | Tandplejen
もくじ
デンマークでの歯医者デビューは歩くより前に
デンマークでは、医療は一生を通じて無料ですが、歯医者だけは別。
唯一カバーされない、高い歯科治療費は有名です。
ただし、18歳未満の子どもは、検診も治療もタダで受けられます。
娘も例外なく、1歳を目前に歯科検診のお知らせメールが届き、歯医者さんスティーナとのお付き合いが始まりました。
子どもの歯科医訪問は市が管轄していて、娘が振り当てられたクリニックも子ども専用。
近くにある公立小中学校の中に併設されています。
初回の訪問では、本人も小さかったため、少し泣いただけで済みましたが、1年後、自我が目覚めてからの訪問はすんなりといかなくなりました。
娘のお口は貝よりカタい?
待合室のおもちゃで遊んでいるときは平気なのに、診察室に入った瞬間に大泣き。
わたしにしがみついたまま、口を開けるどころか一向に泣きやまず、あまりに大きい声で泣くので、スティーナとの会話もままなりません。
そこでスティーナは、歯科用の鏡を手に持ち、一緒に鏡で指を数えようと娘に提案。
ノーと言う娘に「じゃあまずパパの指を数えよう」と言って、夫の指を数えます。
「じゃあ次は、あなたの番。さあ、おててを出して。」
一瞬手を出しますが、数えるところまで至らず、もちろん口は堅く閉じたまま。
スティーナは、「無理強いをすると”歯科医恐怖”になってしまうから、今日はここまでにしましょう」と言います。
歯医者に来たのに、歯を診てもらわないで帰るとは全くの予想外。
一方、スティーナは慣れているようで、気長に待つつもりの様子です。
おみやげのシールをもらい、その日は終了しました。
そして、6ヶ月後。
今回も、娘は同じく大泣き。
何とか突破口を見つけようと、代わりに夫が診察椅子に座って、後ろに倒れて起きるのをやってみせます。
スティーナも「パパが座った椅子を上下に操作するボタンを押してみようよ」と遊び感覚で促すのですが、やっぱり大泣き。
この日も口を開けることはおろか、指も数えず椅子にも座らず。
「私のことを忘れてしまわないように、あまり間を空けずに次の約束をとって、慣れていくようにしましょう。」
そして、スティーナと娘は、次に会ったときは、鏡で指を数えるか診察椅子に座ろうねと約束し、その日は終了。
その後、図書館で歯に関する絵本を片っ端から借りてきて、家で繰り返し読んだり、歯医者に行くという事に出来るだけ慣れてもらおうと、夫と2人で準備を重ねました。
そんな努力の甲斐あり、家での歯磨きも上手くいっていたので、淡い期待を抱きつつ、次の訪問を待ちます。
変わらない状況と続く「歯を診ない歯科訪問」
そして3ヶ月後に再び訪問。
残念ながら状況は全く変わらず、歯医者のスティーナも、私たち親もどうしたらいいかお手上げ状態。
でも、スティーナも私たち親も、初回で見つかった虫歯になりかけの歯が気になるので、簡単にはあきらめません。
でも、無理強いするのはいたたまれないし、それはスティーナも反対。
そこで、次回までには、しっかり家で指を数える練習をしてくると約束し、おもちゃをもらって終了。
そして1ヶ月後。
まだスティーナは娘の歯を診ることができていません。
そこで思いついたのは、良く知る子どもが診察されているのを見たら、大丈夫なことがわかってもらえるんじゃないかということ。
スティーナと相談すると、何と奇跡のごとく、娘のすぐ後に、近所のお友達が検診にやってくるとのこと。
彼女は小学校0年(日本の1年生)で年上なので、歯医者に慣れています。
スティーナから、娘のお友達と同伴の親にその場で確認を取ると、すぐにOKが出たので、検診中在席させてもらうことになりました。
お友達が診察されている間、泣かずに興味津々で見ていた娘をみて、ああよかった。これで次回は大丈夫だ、とスティーナも私たちも安心。
次回の予約を取りました。
一歩も譲らない娘 vs 追い込まれた歯科医と親
そして1ヶ月後。
家では朝晩の歯磨きと共に指を鏡で数え、「今度スティーナに会うときは、練習してきたよ!って見せてあげようね」と繰り返し、準備は万全です。
ところが、診察当日、練習の成果はゼロ。
むしろ、嫌がる娘の大泣きは、前よりもひどくなった様子。
そんな娘を見て、スティーナはこう言います。
「今回は指を数えるだけのはずだったけど、それも出来ない。考えられる選択肢は、もう少し成長して理解が深まるまで待つか、リラックスする薬をあげて診察すること」
薬をあげるのは反対だったので、残された選択肢は、虫歯を診てもらわないまま半年から1年待つこと。
どうしようかと迷いました。
他に似たようなケースはあるのか聞くと、子どもによって反応はそれぞれ違うけれど、誰でも2~3回後には口を開けてくれる、と言うのです。
少し考えると、スティーナはこう言いました。
「歯医者として、虫歯があるとわかっているのにフッ素を塗らないで返したくない。」
そして、「小児歯科としてこれは言ってはいけないことだけれど、”大人3人で協力して”歯を診ることもできる。」
何度通っても状態が変わらないと判断したスティーナからの一言でした。
今まで力尽くは反対でしたが、歯を診ない歯医者通いを続けても、前進どころか、更に反発するようになってしまったからです。
そしてスティーナは続けます。
「自分の子も、むりやり診ることになったが、終わったらすぐに強く抱きしめて慰めてあげるという風にした。」
「もしあなたたち2人が合意するなら、そういう形で診察できる。」
そして、やはりここでも自分の境界線を大事にするデンマーク。
スティーナは、自分の感情の境界線を引き合いに出し、「私自身の境界を越えたらその時点で止めます」と言いました。
泣きわめく子を診察するのは、診る側も非常にエネルギーを使います。感情の限界がギリギリまでチャレンジされるのは容易に予想できます。
限界を超えない限り試してみよう、そして、子どもの気持ちのケアはあとでしっかりしようという提案です。
娘のために心を鬼にした結果…
夫と私は目配せをし、「やりましょう」とスティーナに伝え、娘には「ママとパパが手伝うからスティーナに診てもらおうね」と予告。
私が娘を抱っこしたまま診察椅子に座り、夫が脚を押さえながら、診察が始まりました。
すぐに終わるよ、口の中を診るだけだよとスティーナは繰り返しながら診察を行います。
そして、やはり虫歯になりかけの乳歯が2本見つけたので、フッ素を塗ることに。
娘は泣きわめいたままでしたが、娘を巻き込むように会話を続けます。
「フッ素の味と匂いが何種類かあるけど、どれがいい?好きなのを選んでいいよ。ほら匂いをかいでごらん。」
娘は、答えるべきかどうか少し迷っていましたが、最終的に、渋々ながらもバナナ味を選びました。
その時点で私は、娘は、嫌がって抵抗はするものの、諦めて折れているんだなとわかり安心。
そして、再び協力してフッ素を塗りますが、なんと終わった後は、ケロリ。
抱きしめて慰めるとすぐに泣きやみ、しっかりおもちゃを3個ももらってご機嫌で帰りました。
感情と後押しのバランスを取るのは難しい
こうして、長かった道のりは一旦幕を閉じました。
子どもの感情を大事にしながら、やらなければいけないことを通すのはとても難しい。
歯磨きと検診がどれだけ大事なことか、小さい子どもには理解できないからです。
私は、娘の感情を大事にしながら、「デンマーク流」に、遅いとも思えるペースで慣れていくように手助けをするという、この方法でやって良かったと思っています。
意志の強い娘は、その間に心の準備を整える時間を与えられ、最終的には「よくわからないけど、ママもパパもここまで言うんだからしょうがない。やらなくちゃいけないことなんだな」ということが理解できたので、折れてくれたのだと思います。
そして私も、娘の限界や性格についてより深く知ることができ、娘も成長できたんだなあと感じるとともに、今後どのように娘の気持ちに寄り添いながら、後押ししていったらいいかのヒントが見えました。
次回スティーナに会うのは6ヶ月後。
楽しみです。