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デンマークが段階的オープン開始。政府が徹底するコロナ感染予防と子どもたち

画像:Pressemøde i Statsministeriet – Regeringen.dk

もくじ

不安の中、賛否両論の段階的オープンがスタート

3月12日(公的には16日)にデンマークが新型コロナウイルスによってシャットダウンされてから、約1ヶ月後の4月15日。

皆が待ちかねていた段階的封鎖解除が始まりました。

第一段階で対象に選ばれたのは、保育園・幼稚園生(0歳~6歳)と、0年生~5年生までの小学生(6歳から12歳)。

その理由として、「年齢が低い子どもたちは感染リスクが低い」という専門家の医療的見解に加え、「1ヶ月間、子どもの面倒を見ながら、同時に在宅勤務をしていた親たちの負担を減らし、仕事に集中出来るようにするため」という経済的理由があげられました。

この政府の決定には賛否両論が巻き起こります。

「待ってました!」という前向きな声も多い中、懐疑的な声も多数。

「私の子どもはコロナウィルスの実験モルモットじゃない!(Mit barn skal ikke være forsøgskanin for covid-19)」というフェイスブックグループのメンバーが40,000人を越えるなど、ウィルスがまだ蔓延する中、まず最初に小さな子どもを社会に戻すことに、不安を抱く親が多くみられました。

加えて、保育園や学校をオープンするにあたって国から課せられた要求にも、「コロナ以前の日常とはかけ離れている」、「小さな子には無理難題だ」と反発がありました。

その要求とは(特に保育園・幼稚園);
ー 最低でも1時間半ごとに、手を念入りに洗うこと
ー おもちゃは洗えるものに限定し、1日2回洗うこと
ー 園内を1日2回掃除すること
ー 机や椅子は2メートル以上の距離を置くこと
ー 子どもを少人数にグループ分けし、常に決まった数人とだけ遊ぶようにすること
ー 出来る限り屋外で遊ぶこと

親だけではなく、受け入れ側の保育園・幼稚園でも、「一体どうしたら、この無茶とも思える要求を満たしながら、子どもにベストな環境を提供できるのか」と不安がある中、数日から1週間の間にガイドラインに沿った受け入れ状態を整えるため、動き出します。

そんな中、私を安心させてくれたのは、状況を逐次詳細にアップデートしてくれる園長のメールと、「皆、子どもたちに会えるのを待ちわびている」という保育士たちの声でした。

子どもを預けるかどうか。親たちの反応、分かれる選択

政府の発表後、近所の何人かと話をしました。

この状況の中、子どもを保育園・幼稚園に預ける(預けたい)かどうか、意見は分かれます。

「不安はない。専門家が大丈夫だと判断して決めたことだから、信用する。」

「不安はないわけではないけれど、仕事も生活もまわらないから保育園に送るしかない。」

「子どもはもう1ヶ月も家にいて退屈しているし、友だちに会いたがっているから、子どもにとってもいいこと。」

「まだ不安だから、あと数週間は様子をみる。」

「両親とも(コンサートが禁止で)仕事が出来ない状態だから、他の切羽詰まった人を優先するために、自分の子は家で面倒を見る。」

行きたくても行けない。スペース不足の保育園・幼稚園

上記、一番最後の意見は、保育園・幼稚園のプレッシャーを和らげることになります。

というのも、再オープンの条件として、一定の「ソーシャルディスタンス」を確保するため、子ども一人あたりに必要なスペースが課されたからです。

コペンハーゲンや都市内では、小さなアパートを改装した保育園・幼稚園が多くあり、通常の定員を全て受け入れると、子ども同士が2メートル以上離れて座るスペースは確保出来ません。

それにより、受け入れ可能な人数が格段に減り、戻りたくても戻れない子どもたちが多く出てきました。

娘の幼稚園でも、通常36人の定員中半数の18人しか受け入れられないということで、希望者のなかから、市が決めた優先条件に基づいて受け入れが決まりました。

クリエイティブな解決策を見いだすコペンハーゲン市

そんな状況の中、少しでも受け入れ数を増やし、本当に必要な人が保育園・幼稚園に行けるように、園や学校、市は、頭をひねります。

コペンハーゲン市は、コロナの影響で一時的に閉まっている公共施設を活用して、スペース不足を解消する試みを開始。

チボリ公園や動物園内に併設された遊具のある遊び場を、近隣の保育園・幼稚園に解放したのも、その取り組みのひとつです。

娘の幼稚園でも、園のすぐ外にある芝生エリアに、野外テントを張って追加スペースを作り、受け入れ可能な人数を増やそうと計画が進みました。

その他、政府も休暇制度を導入。

子どもを自宅に居させたい家族と、自宅保育が可能な家族は、申告制で決まった期間保育園・幼稚園を休むことができ、その期間の保育料は納めなくていいという制度です。

その後も、親、子ども、園や国と、様々な方面に負担がかかるなか、制度導入や見直し、変更、延長などの対応はアクションが早く、政府も、状況に応じて新たな政策を打ち出します。

公共機関や、コロナ専用に設けられたウェブサイト上での情報共有も、決定事項や、それに関するQ&A(良くある質問と答え)がすぐに反映されるなど、デジタル面でもタイムラグがない情報共有は透明性が高く、ストレスや不安を和らげる助けになりました。

実際に我が子を保育園・幼稚園に送ってみて

多少の不安はありましたが、4月20日からの受け入れが決まり、娘は保育園(Vuggestue)に戻ることになりました。

初日、保育園に着くと、ソファーや布製マットレスなどは全て姿を消し、暖かみがない殺風景な雰囲気。

送り迎えの時間も、前後の人とのコンタクトを避けるため10分刻みで指定され、室内へ入ることも禁止されています。

コロナ前とは違う、衛生状態を最優先させた日常が始まりました。

私が一番気がかりだったのは、娘の行動が限定・コントロールされることで、精神に悪影響がないかということでした。

世界は危険なところだと感じたり、必要以上に衛生状態を気にするようになるのではないか。

人と距離をとることを強いられ、遊ぶ友だちを自分の意志ではなく大人が選ぶことで、社会性・社交性にも影響があるんじゃないかと。

段階的封鎖解除の開始前は「乳幼児がふれ合いなしで1日を過ごすなんてあり得ない!」と不安を覚える親も多かったのですが、政府が「小さい子が、コロナや『ソーシャルディスタンス』を理解出来ないのは当たり前。グループ内でのスキンシップは制限なし」と言ったとおり、特に弊害は見られない様子。

手洗いも水遊びの延長にしたり、外でピクニックをしたり、おもちゃに頼らない遊びを考えるなど、保育士たちもクリエイティブに問題解決に取り組んでいる様子が伝わってきました。

また、普段より受け入れる子どもが少ないため、結果大人の目も行き届き、保育園から帰ってきた娘がとてもハッピーだったので安心できました。

突然の幼稚園進学

そんな中急に、娘は保育園から幼稚園に進学することになりました。

管轄や法律によって分けられる日本の保育園と幼稚園のくくりとは違い、デンマークでは、主に0~2歳がVuggestue、3歳~6歳がBørnehaveと年齢で分けられます。(わたしはVuggestueを保育園、Børnehaveを幼稚園と呼んでいます。)

3歳を過ぎた娘は、コロナの真っ最中に、同じ園の、違う場所にある幼稚園に移ることになりました。

この状況でルールが多い中、新しい環境や違う保育士にうまく慣れることができるのか不安でしたが、幼稚園・保育園、双方からの支援と協力で、無事に「慣らし保育」を終え、今は毎日元気に幼稚園に通っています。

これからのデンマークと子どもたち

デンマークでは段階的オープンの第2段階目が現行しています。

コロナ重症患者の入院数減少に伴い、夏に向けて進む予定である第3段階、第4段階の予定も公にされました。

中学生以上の子どもたちも、順にオンライン授業から通学出来るようになります。

このほかにも、4月15日以降、ルールやガイドラインが随時アップデートされています。

手洗いの頻度は少なくなり、ソーシャルディスタンスの距離も2、3メートルから1メートルに。

また、木曜(5月14日)には、幼稚園を通じて「これまで政府の方針であった、子ども一人当たりに必要なスペースの制限がなくなった」とのメールが届きました。

これにより、5月25日から、定員全ての子どもを受け入れることが出来るようになります。

ただし、衛生管理や時間刻みの送り迎えは引き続き続くとのこと。

そして、「鎖国」はまだ続き、いつデンマークへの出入りができるようになるかは、まだ見込みが付いていません。

今後も、状況に応じてルールが変わっていくことは必至ですが、常に状況を見直し、修正していく政府を信じるしかありません。

私は、今の時点で、子どもを幼稚園に送る不安はありません。

何よりも、難しい状況の中、子どもたちの成長を真摯に考えてくれる園長と保育士に感謝しています。