ヒュゲリなコラム

「うつ病シェイミング」は生きにくい社会をつくる。カミングアウトの意義とは

もくじ

世界にはびこるシェイミング

少し前から、「ボディーシェイミング」や「スラットシェイミング」など、○○シェイミングという言葉をよく聞くようになりました。

「こうあるべきである」という、世間の枠から外れた人や行動が、白い目で見られることです。

「太っている人はだらしがない」「あんなに露出してるんだから誘っていると思われても仕方がない」と、他人をシェイミング・批判することはもちろん、

「ブサイクだから彼女ができないんだ」「太っているから水着を着れない」など、あるべき枠に入らない自分自身をシェイミング・批判してしまうこともよくあるでしょう。

同時に、そのようなシェイミングを批判する運動も。

デンマークでは、イダ・ルッド(Ida Rud)さんが、ファットシェイミングを無くそうと運動しています。

私も、自分がうつ病になるまでは、無意識に「うつ病シェイミング」をしていました。

「うつ病は弱い人がなるものだ」「気力で乗り越えられない人は弱い」と思っていたのです。

以前職場で、うつ病のためしばらく休んでいるデンマーク人の同僚がいました。

当時私が思ったのは、

「いつも楽しそうだったのに、どうしてうつになったんだろう」

「仕事でストレスも少なそうなのに」

「ネガティブに考えないで、ポジティブになればうつ病にならないのにな」

でも、それがとんだ間違いだとわかったのは、自分自身がうつ病になった時。

それまでも、「今日ちょっとウツ入ってる」と軽く言ったり、「うつ」という言葉にはなじみがありました。

しかし、「病気としてのうつ病」については知識もなく、理解も出来ませんでした。

気力だけではどうにもならず、美味しいものを食べたり、カラオケに行って発散する事では良くならないことも。

うつ病になってしまう原因は、妊娠出産、いじめ、近しい人の死など様々です。

その中でも、これが原因だとはっきり特定できることもあると思いますが、原因がわからないものも多くあり、うつ病の状態や程度も一人一人違います。

ただ、残念ながら、うつ病への理解や経験がなく、偏見がある人が多くいることは否定できません。

強い人はうつ病と無縁?

少し話は外れますが、今、ニュースでは、SNS上での誹謗中傷の話題で持ちきりです。

ネット上での「あり方」、他人との関わり方が問われているなか、気になったことがあります。

「私は何を言われても気にしない」「乗り越えて強くなった」と言う人たちが、ひとえに「かっこいい」「強くて尊敬する」と、ポジティブにとらえられていることです。

もちろん何かを乗り越えて強くなることは素晴らしいことです。

私も、セラピーに助けられて、辛い感情を乗り越えようとしています。

ただ、私が度々思い出すのは、今まで出会ってきたセラピストや心理学者が繰り返し使った言葉は、「Stronger(今より強くなる)」ではなく、「Wiser(今より賢くなる)」だったこと。

この「Wiser」とは、自分と向き合い、辛い感情や体験を乗り越えることで、自分自身をより深く知り、辛いときに自分がどんな反応をするのか、そういうときはどうしたら前に進めるのか、知識や経験を積むこと。

何らかのきっかけで、辛くなり、暗闇に引き込まれてしまうのは、決して「精神の弱さ」からくるものではないのです。

強いか弱いかのどちらかではない向き合い方は、セラピーで得た財産となりました。

誰に相談したらいいの?

うつ病になってからは、1年以上友人との交流も遮断していました。

友だちは「相談して」「がんばって」と言ってくれたのですが、良かれと思ってくれる叱咤激励が逆効果になり、さらに遠ざかったのを覚えています。

そんなとき、デンマークの社会・医療システムの恩恵を受け、セラピーへと踏み込んでいったのですが、初めは抵抗がありました。

米国映画やドラマでは、「Shrink(Head-shrinker)」なるセラピストが度々登場し、その存在について知ってはいたものの、「私は頭がおかしいわけじゃない」「精神科なんて自分とは無縁だ」と、一歩を踏み入れるのが恐かったのです。

でも、セラピーを続けるうちにそんな偏見は消え、プロの助けを借りることの意義がわかるようになりました。

デンマークの精神科医と心理学者の違いは?

初めは、そんなプロの中に大きな違いがあることは知りませんでした。

私が出会ったのは、Psykiater(精神科医)、Ergoterapeut(作業療法士)、Psykolog(心理学者)。

初めの診断時は精神科医に会いました。

それまで、いわゆるセラピストと言えば精神科医だと思っていました。

でも、精神科医は薬を出すことができるお医者さんです。

私が出会った精神科医は、話す中で何かに気づくセラピーは行わず、話の内容を診断に使うという印象でした。

人によって症状やニーズは違います。

日本でのシステムや呼び方も違うでしょう。

ただ、もしこれを読んでいる人や、その周りの人で、辛い思いをしている人、薬(だけ)に頼らない助けを求めてる人がいたら、是非、話を通じて原因や解決策を見出す心理学者を試してみることをお勧めします。

うつ病へのレッテルとカミングアウト

心理学者のもとでセラピーを始めた後、長い間、周りの人にうつ病について言いたくありませんでした。

会う度に気分はどうか聞かれるのが嫌だったこともありますが、「弱い人間」とレッテルを貼られたり、経験がない人に意見されるのが嫌だったからです。

そんな私にセラピストは、「言わない=隠す」のではなく、言う(言いたい)人やシチュエーションによって変えればいいと気づかせてくれたのですが、始めはこの簡単そうなバランスがしばらくわからず、実行できませんでした。

ただ、セラピーを続けていくうちに、「ちょっと辛い時期があったけど、それについては話したくない」という、「隠さないけど言わない」という、自分に正直なバランスをとることも学びました。

また、何事も受け止めてくれるセラピストたちに出会ったことで、オープンに話すことに抵抗がなくなり、自分との向き合い方に変化が出てきます。

そして、もうひとつセラピストに言われて驚いたのは、「カミングアウト」は娘にもしていいということ。

「『ママは辛いとき他の人と話をしているんだよ』」と言うのはいいことだ」と言われたことです。

親が、自分(子ども)ではなく他の人に話して問題解決をしていると知ることで、親の幸せは自分の責任なんだと勘違いせず、いい関係を保てるというのです。

「気負わず自分に正直に」「辛い時には助けを求めていい」ということを、娘にも行動で示せるこのアドバイスは、今後も続けていくつもりです。

今後の自分との付き合い方

こうして、徐々に、自分に対する「うつ病シェイミング」は和らいでいきました。

また、「うつ病だったわたし」についてオープンになることで、周りの人とのつながりも深くなったと感じます。

これからも、世の中での「うつ病シェイミング」は消えないでしょう。

ただ、うつ病への理解と、人の気持ちに寄り添える人が増え、同時に、何らかの理由で深い悲しみに苦しんでいる人たちが、プロの助けを借りて「Wiser」になれることを願っています。