ヒュゲリなコラム

子づくり支援は国への投資。欲しい人が子どもを持てるデンマーク

画像:Pixabay

「普通」になった試験管ベビー

世界初の「試験管ベビー」が産まれたのは1978年。

それから40年経った今、当時の衝撃や反発はなくなり、「科学の力」を借りて子どもを授かることは、珍しくなくなりました。

それは、ここデンマークでも同じ。

年間約10%が、体外受精や人工授精などの妊娠サポートを介して産まれるというデータが出ています。

2019年には61,167人が誕生したため、その10%は6116人。

人口560万人の小国デンマークでは、その割合は少なくありません。

私の娘もその10%。

また、近所のソフィアやペニレも、「ああ、うちは兄弟2人ともIVFよ」とカミングアウトするなど、妊娠サポートを受けた人が身近に何人もいます。

大声で宣伝するわけではないけれど、隠しもしない。

サポートを受けることは特別なことではなく、予想外に多くの人がサポートを求めていることを知りました。

「不妊治療」は負担なし

その高い「治療費」は誰もが払えるものではありません。

日本で体外受精を受けた友人が、妊娠するまでにクリニックに払った総額は200万円を超えたそう。

しかし、デンマークでは、条件を満たせば国の健康保険でカバーされ、無料で受けられます。

主な条件は、
ー 女性が40歳未満
ー 1年以上子どもが出来ない
ー カップルの場合、2人の間に実子、または養子がいない
ー シングル(女性)やレズビアンの場合、本人に実子がいない

他にも細かい条件はありますが、薬代以外は自己負担なし。

加えて、体外受精、人工授精など、サポートの種類とそれに伴う値段は関係ありません。

敷居の低さに、私たち夫婦も助けを求めることにしました。

主なステップは、
→ かかりつけ医師(ホームドクター)への相談*
→ 婦人科への紹介状
→ 夫婦ともに様々な検査(血液検査、卵管検査、精子検査など)
→ 大学病院への紹介状
→ ウェイティングリストでの順番待ち(約6ヶ月)
→ 治療開始

*デンマーク医療システムでは、どんな症状でもかかりつけ医師が窓口の役割を果たし、そこから専門分野の医師・病院に紹介されます。

順番待ち時間も含めて、具体的なサポート開始まで1年ほどかかりましたが、大学病院での初回コンサルティングの後はトントンと話が進みました。

しかし、中には、この待ち時間が惜しいという人もいます。

近所に住む友人クリスティーナは、一刻も早く妊娠したいという希望のもと、待ち時間のないプライベートクリニックに直接行き、サポートを受けました。(この場合は、全額自己負担)

ちなみに、2人目以上の妊娠サポートを受ける場合は、人工授精は3回まで無料ですが、それ以上は自己負担。

年齢制限も、女性が46歳未満であることのみが条件となります。

異性同士の既婚夫婦にとどまらないサポート

イクオリティ(平等)が進んでいるデンマーク。

冒頭の条件にもあるように、サポートを受けられるのは、結婚しているカップルのみではありません。

ー 未婚の男女カップル
ー 女性同士のレズビアンカップル、および夫婦
ー シングルの女性(セクシュアリティは問わない)

子どもが欲しい女性は、父親がいなくても子供を持つという選択肢があるのです。

その1人は、デンマーク語学校で知り合ったイタリア人のマリア。

イタリアでは、結婚していないカップルや女性が一人で子供を持つことは許されていないため、不妊治療のため、デンマークにやってきたそうです。

子どもは欲しいけど、今一緒に子どもを持ちたいパートナーはいない。

30代半ばになって、年齢的に待てないと感じたマリアは、一人で子どもを持ちたいと決め、移住してきました。

精子バンクで精子を購入し、クリニック通いを続けています。

もう1人は、近所のアネッテのお姉さん。

お姉さんはレズビアンで、女性と結婚していますが、相手の女性との間には子ども2人がいます。

その子ども2人は、血が繋がった姉妹だそうです。

女性同士なのにどうしてかなと話を聞くと、年が3歳離れた姉妹は、同じ提供者の精子で産まれたとのこと。

妊娠・出産も、お姉さんと相手の女性が1人1回づつ平等に「担当」。

産休や身体の負担など、様々な要因を考慮しての選択だったそうです。

産まずして子どもを持つ人も

少し話はずれますが、もちろん選択肢は不妊治療のみだけではなく、中には、別の方法で親になる人も多くいます。

養子縁組はそのひとつ。

デンマークでは、海外から養子を受け入れるカップルも多く、親と見た目も肌の色も全く違う親子は珍しくありません。

また、男性カップルは生理学的に出産ができないため、基本的に代理出産や養子を選ぶことになります。

この場合、費用は自己負担ですが、子どもを受け入れた後の「産休」は、実子より短いものの、取ることができます。

そしてもう1つ、デンマークらしいのは、再婚により授かる「ボーナスキッズ」。

離婚が多いデンマークでは、再婚相手や自身に子どもがいることは珍しいことではありません。

システムとしてのサポートはありませんが、保育園や幼稚園でも保育士の理解やサポートがあったり、図書館でも離婚や再婚、新しい家族や兄弟に関する絵本があるなど、間接的なサポートがあるという印象を受けます。

妊娠サポートは少子化の歯止めにつながる?

日本でも、不妊治療には健康保険が適用されますが、検査、排卵誘発剤などのごく一部。

範囲が限られます。

90年代のエンゼルプランから少子化対策が勧められていますが、ペースは遅く、今後さらなる少子化が進んでいくと言われています。

対照的に、デンマークでは出生率が回復しつつあります。

出産後の支援制度の充実や、学費が無料であるなど、子どもを産んだ後の負担が日本より少ないこともあるでしょう。

ただ、不妊治療は、産みたい人が妊娠するチャンスを与えられる機会。

これを国が全面サポートするデンマークは、子どもが国の未来であると真剣に受け止めているからではないでしょうか。