みなさんにとって秋はどんな季節でしょうか?
デンマークの偉大な哲学者キルケゴールは自著「秋の賛歌」(Lovtale over Efteraaret)の中で、
“秋は色のとき(Efteraaret er Farvernes Tid)”という題の文章を書いています。
それによると、色とは視覚的な動作や動揺の事であり、不完全なものである。つまり一貫して気持ち良い晴れやかな青空や爽やかな新緑が印象的な夏には(視覚的な変化がないため)色がなく、一方秋は紅葉に代表されるように色の変化が見る者の情感を刺激し、またそれによって個人の色の見え方も以前のものとは変わってくるから“秋は色のとき”だと言っていましたよ!
さすがキルケゴール、難解でひねくれていてわかりにくい!(笑)
秋の捉え方は人それぞれだと思いますが、個人的には感傷的な季節だと思っています。
なので秋は感情が揺さぶられて、見終わったあとにじーんと深く考えさせられるような、余韻が長く続く映画が見たくなります。
ということで前置きが長くなりましたが、今回は秋こそみたい、デンマークが誇る人気映画監督スザンネ・ビア監督の名作を3つ紹介したいと思います。
もくじ
1.きっとタイトルの意味を咀嚼したくなるはず
「しあわせな孤独」(2002:原題ELSKER DIG FOR EVIGT/永遠に愛してる)
<画像:T-SITE>
結婚間近で幸せの絶頂にあったはずが、交通事故によって全身不随状態になってしまったヨアヒム。事故によって絶望した恋人に冷たい態度をとらながらも、なお愛し献身的に介護するセシリ。事故の加害者となってしまったマリー。事故の加害者であり、ヨアヒムが入院する病院の医師であるニルス。それぞれの想いと愛が錯綜し、やがて4人の関係も変化してゆきます―――。
・おすすめポイント
登場人物4人の誰に寄り添ってもその葛藤が痛いほどわかる、そんな緻密な脚本と人物設定がすばらしいです。
どうにもならない状況で、どうにも振り切れない感情はどうすればよいのか。登場人物の誰に感情移入しても揺さぶられます!
※なおこの映画は画像が粗めなのですが“ドグマ”というデンマーク特有の教義に基づいて製作されたことによるものです。
2. 普遍的なテーマに真っ向から挑んだ見ごたえのある作品
「未来を生きる君たちへ」(2010:原題 Hævnen/復讐)
<画像:シネマトゥデイ>
暴力や憎しみに満ちた世界の中で希望を見いだしていく人々の姿を描き、第83回アカデミー賞外国語映画賞を受賞した感動作。ある2組の家族が抱える葛藤(かっとう)から複雑に絡み合った世界の問題を浮き彫りにし、登場人物それぞれが復讐(ふくしゅう)と許しのはざまで揺れ動くさまを描写。(シネマトゥデイ作品情報より)
・おすすめポイント
理不尽な世の中で生きていくことの難しさ、それを大人が子どもに伝えることの難しさ、そして子どもが大人のいう事を理解することの難しさが上手く表現されています。社会的なテーマを扱うためボリュームや内容は重めですが、ラストはかなり感動的です。
3.ずっしり度高め。でもこの情緒を描けるのってすごいかも。
「ある愛の風景」(2004:原題 Brødre/兄弟)
<画像:映画.com>
美しい妻サラと2人の娘に囲まれ順風満帆な生活を送っていたエリート兵士のミカエルは、ある日戦地へと送られる。間もなくして彼の訃報がサラのもとに届く。ミカエルとは対照的に定職もなく前科のある厄介者の弟ヤニックは、ミカエルの代わりに絶望に伏すサラを支え、子供たちの父親代わりとなることで次第に心穏やかな人間へと変わっていく。サラとヤニックが互いに惹かれ合っていく中、死んだはずのミカエルが別人になって帰ってきた―――。
・おすすめポイント
タイトルからは想像がつかない少し異形な愛の風景です。かなりずっしりと重く苦しい内容なのですが、人間の心の脆さや複雑さを繊細に描いている作品だと思います。実はこの作品をもとに、2009年にナタリー・ポートマン主演でハリウッド版のリメイクが作られたんですよ。
※デンマーク版の予告がなかったため、ハリウッド版のもの
さて、みなさんどれかひとつでも気になる映画はあったでしょうか?
ぜひ、みなさんも今年は“デンマーク映画の秋”はいかがですか?
※ドグマ95…1995年に4名の監督によって始められた映画運動のこと。
脚本や主題、役者の演技といった映画本来の要素に観客の視点をフォーカスさせる目的で、効果音・人工照明NGなど映画製作における決まりごとを定めた(「純潔の誓い」)