ヒュゲリなコラム

オブラートには包まない?デンマーク人の根底にある感情との向き合い方

もくじ

感情をごまかさないデンマーク人

デンマークでは、自分の感情や他人の感情を受け入れることに非常に重きが置かれています。

そして、それを口にして表現するのに躊躇しません。

デンマーク人は自分に正直だなあというのは、移住後まもなく感じるようになりました。

初めて衝撃を受けたのは、当時勤めていたIT企業でトイレに行ったときです。

男女平等のデンマークらしく、トイレは男女共同。

個室の外にある洗面所で手を洗っていると、会社の役員もトイレから出てきて、隣同士で手を洗うことに。

何の気なしに「元気ですか?(How are you?)」と聞くと、「元気じゃない。疲れているし、仕事で上手くいかないことがあってイラついている」とさらりと言ったのです。

ただの挨拶代わりで言った「元気ですか」に、当たり障りのない「ええ元気です」という答えを待っていた私は、全くの予想外の回答に面食らってしまいました。

しかも、まさか会社のお偉いさんが、下っ端の私にそんな正直に答えてくるとは予想だにしません。

デンマークのスーパーフラット社会にも、包み隠さないダイレクトな感情のキャッチボールにも慣れていなかった当時の私は、度肝を抜かれたまま、なんと返していいかわからず、無言のまま立ち尽くすことになってしまいました。

うつ病と子育てから見えた、デンマーク流 感情表現の源

でも、そのような、正直で直球なデンマーク人の根底にあるのは、子どものころの「感情教育」だと気づいたのは、過去のトラウマと向き合うことになってから。

セラピーを通して、自分が今まで得意だと思っていた感情表現は、見当違いだったことに気づかされました。

幼少時に培った、歪んだ感情との付き合い方が及ぼすネガティブな影響にも。

感情への向き合い方は、デンマークでも「感情教育」というくくりで教えたり教わったりするものではなく、日常生活や周りの大人から自然に学んでいきます。

私はそのような環境で育たなかったため、大人になってからデンマークの子どものプロを通して、健全な感情との向き合い方、そして幼少時からの「感情教育」の大切さを学びました。

そして、娘の感情の発達をサポートするとともに、遅ればせながら自分自身への「感情教育」をすることになりました。

どんな感情も危険ではないし、恐れるものではない

小児・児童心理学者のエマから教わり、今でも自分自身と子育てのコアになっているのは、「感情は悪いものじゃない。怖がらなくていい」ということ。

私の小さい頃、うれしいや楽しいなど、ポジティブな感情に触れる機会は多くあったことを覚えています。

でも、ネガティブで醜い感情についてオープンに話したり、そう言う感情を持つのも普通だよ、押し殺さなくていいんだよ、と教えてくれる本や大人がいた記憶がありません。

親に感情をぶつけて反発すると、生意気だと「しつけ」と称して罰されました。

しかし、言葉や身体の暴力を受けたあとも悲しみについて話す機会はなく、怒りは悪い結果を生むんだ、悲しみは黙って耐えるものなんだ、と擦り込まれていったのだと思います。

今まで多くの人から言われた「あなたはいつも笑っているね」というのは、当時はほめ言葉だと思ってよろこんでいましたが、本当は感情との向き合い方が成熟していなかったんだと、今になって思います。

どうしたら自分のネガティブな感情を恐れず、上手に付き合っていけるのか。

そして、どうしたら娘と色々な感情に対してオープンに話し合っていける関係を築けるのか。

自分自身は経験がないので手探りでしたが、エマや保育士、そして自分のセラピストと議論していくことで、少しずつ手応えが出てきます。

エマ推薦の本から始まった我が家の「感情教育」

まだ娘が小さかった頃、エマと感情について話していると、ある本を薦められました。

「あべこべロッタちゃん」

ノルウェーの絵本がデンマーク語に訳されたものですが、エマの言う「どんな感情も怖がらなくていい」ということを子供向けに上手く表現した本です。

それをきっかけに、図書館にある感情に関する絵本を片っ端から借りてきて、口頭で日本語に訳しながら読み聞かせをするようになりました(ぜひ日本語に訳して多くの子どもに読んでもらいたい絵本が多くあります!)。

同時に日常生活でも、娘が出会う感情や、私が感じている気持ちについて、意識的に口に出して話し合うようになりました。

大きな手応えを感じたのは、ある日、私と夫が喧嘩をした夜。

一度寝た娘が目を覚まし、泣きながら「かなしいよー。かなしいよー」と叫んだのです。

その時わたしは「ハッ」としました。

娘は喧嘩を聞いているだけで何も言わなかったけれど、その小さな心の中で何かを感じていたんだなと、何も言わなかった自分に反省しました。

そして、エマが言った「子供は、全く見当違いの時も、自分のせいだと自分を責めてしまう」という言葉と、かつて両親が喧嘩していた時の自分の気持ちを思い出し、これからは感情をオープンに話せるようにしようと決めたのです。

その後は、怒っているときは「ママ、今プンプン」、「今、ママとパパは喧嘩をしているけど、すぐに仲直りするからね」と口に出して言っています。

また、そうやって感情を小出しにしていると、家族でもため込んだ感情が爆発することが減るのを実感しています。

個々の感情について、ぜひ伝えたいエピソードがたくさんあるので、今後別々に書いていきたいと思っています。